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65.撃退



 キールは嬉々として戦場に向かったものの、途中からいやな胸騒ぎがしていた。


 というのも、先ほどまで後ろに確認できていた、ディエナ直属の部隊の旗が見えなくなり、まるで気配が感じられないからだ。

 さらに、伝令が命がけでもたらした情報も、この世界では何とも信じられないようなもので、“光の矢”が飛んできて部隊が壊滅何ぞ聞いたこともなかった。



 敵の現れるであろう進行上の草原に部隊を左右に大きく展開させ、前の歩兵には身長の1.5倍はあろうかというような盾を持たせ、自身の手前には騎兵隊を展開させた。


(こうすれば敵もそう易々と破ってこれまい)


 キールは今までと違ってかなり安易な考えをしてしまっていた。


 今回キールが喜んで戦場に向かっていったのは、目先の功労をもらうためではなく、この戦いにどさくさに紛れて“彼女”を奪うためであった。


 以前より、士官学校などでリレイと知り合っていたキールは、クールだが抜群のプロポーションを持つリレイにいつしか恋をするようになっていた。


 そんな彼はリレイに自分の存在感を示すようにどんどん上に上がっていった。


 しかし、その上に面白いように上がっていく自分を見て、リレイはあまりいい印象持っていなかったのか、話しかけてもいつも突き放されて、顔さえ合わせてくれなくなってしまっていた。


 ただ、今回はリレイはこちらに仇なす存在になったのでこれを好機と思い、すぐさまここで恩情を与えてやるのを条件に懐柔してやろうかと思っていた。


(これで、あの娘を俺のものにできる!どんな集団だかしれないが、必ず討ちとって見せる!)


 その場でしばらく待つと左前方から、土煙を上げながら猛烈な勢いで進んでくるものが見えてきた。


 しばらくすると、その集団は人間ではなく長い筒のようなものを先端に付けた箱のようなものだった。

 それを見て、幕僚たちと、大きく左右に蛇行しながらこちらに向かってくる動く箱を「あれは新作のおもちゃのショーに違いない」と笑っていた。


 しかし、そんな余裕をもっていられたのはほんの数瞬だけだった。


 敵は筒のようなものの先端から火を噴かせ、こちらに向かって何かを撃ち込み始めた、最初はそれこそクラッカーを鳴らしただけだろうと思っていたが、前方の歩兵たちの上空で爆発が起き、その度重なる爆風で歩兵隊が崩れ始めてきたのを見てさすがのキールも敵の“攻撃”だと悟った。


 その判断の遅さが仇となり、左右に敵が回り込み、すでにこちらは中央に囲い込まれてしまっていた。

 ついには歩兵隊が壊滅し、騎兵隊も決死の突撃を行うが前から来た新手に、それこそ報告で聞いていた無数の“光の矢”を受けあっさりと消えていった。


 キールのもとには次々に隊の壊滅・消滅を知らせる報が届いていた


(クソ!なんだ、何だってんだ!)


 キールは初めての敗戦に混乱し、頭を抱え、苦悶の表情で下を見続けていた。

そんな使えなくなった上司に対して、部下たちは撤退を進言してきた。

 それでも引こうとしないキールにあきれ果てた幕僚たちは、ついには椅子ごと数人の部下でキールを持ち上げさせ、そのまま残るわずかな手勢で撤退し始めた。

 これによって帝国軍によるハミルトン侵攻作戦は完全に崩壊した。





 撤退していく敵本隊を見つめながら俺は追撃命令を出そうとしたが、今回はこれで終わらせる事とした。

 この作戦はあくまでも帝国軍を王国領から追い出すことであって、壊滅させることではなかった、できることならここで殲滅しておこうとは思っていた部分もあったが、敵のあまりに無様な敗走を見ていてみじめになってしまい思いとどめた。


 リレイとユリーシャは荒い息を吐きながら必死に追撃命令を求めてきたが、彼女たちもその周りにいる隊員も初戦の為これ以上戦わせるわけにはいかないと説明したら、何か言いたそうな顔をしていたがすぐに静かにしてくれた。


 この作戦でこちらの損害は、降車戦闘時での矢による軽傷者以外は死者も出ず、見事な完全勝利であった。

 さらにこの戦闘で得た知識を蓄えていき完全な戦力にしていけば、このあと編成していく部隊への礎になってくれるだろう。



 一方的ではあるがこちらにとっては最新兵器と最新戦術をもちいた作戦は成功をおさめ、安心した俺たちはゆっくりとハミルトンへと帰っていった。



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