55.ベルキア・リレイ中将
先ほどの使者の一団の後ろにつき、集団のいる方へと進ませる。
兵たちが集まる中心部に89式装甲戦闘車を止めさせた俺は、シルヴィアに89式装甲戦闘車のことを任せた。
降りた俺はエレザを連れ立って、女性騎士に案内された場所に向かった。
集団の真ん中にはで簡単に作った椅子と机が置かれた場所があった、そこにはすでに、黒い軍服を着た銀髪の女性が椅子に座って待っていた。
その女性は俺を見るなり、机から立って、ピシッと敬礼をして俺を迎え入れてきた。
「よくぞいらしてくれました、私はこの部隊の指揮官ベルキア・リレイと申すもの、ハミルトン城の方角から来たのであちら側の指揮官とお見受けするが?」
「やはりそうでしたか、こちらも昨夜のことを考えてこちらに向かってきたのが正解だったようです……あっ、申し遅れました、今はこの部隊の“隊長”をしておりますワタです」
(くっ!もうすでにこちら側の動向がばれていただと?あんな夜にどうやって……もしや?)
「ハハッ!もうすでに動きをご存知でしたか、失礼ですがもしやあなたは“転生者”ですか?」
(っっ!正体が知られている?!)
内心取り乱しそうになっていたが、努めて涼しい顔のまま答える。
「何ですかその“転生者”って?」
「ハハッ!ご冗談を、ご自身がよくご存じでしょうに、その証拠がその“鉄の箱”でしょう?」
そこで、俺は観念して正直に話を戻した。
「そうですよ、ただ少し違うのは“転移”ってところですかね」
「そうか、そうでしたか。では、あの光の球や光の矢はあなたの仕業だったのですね!」
リレイの傍にいた女性兵士は顔を赤くして怒鳴りながら、抜刀してこちらに迫ってくる。
それに対してエレザは、ワタに女性兵士を近づかせないために、剣を抜いて臨戦態勢に入る。
俺も身の危険を感じ、腰のホルスターに入れておいたP226を机の下で静かにスライドを引きコッキングしての初弾を薬室に込める。
「とまれ!ワタには近づけさせないぞ!」
「うるさい!私のすべてを奪った者を殺さなくてなんとする!」
しばらくの間両者にらみあいが続いたが、その二人を静観していたリレイは、そんな状況にしびれを切らし一喝した。
「やめろ!ユリーシャ!もう私たちは負けたのだ、だからこうして、ここまで来たんだろう?そもそも君が私の意見を遮ってまで残りの兵たちを救おうと起こした行動だろう?今更そんなことしても何も生まないだろう?」
「……」
何も言えなくなったユリーシャは静かに剣を納め、さらには謝罪の代わりにか頭を下げリレイの後ろに下がった。
しかし、エレザは同じく剣を納めたが、まだ気を緩めていないようで、背中に回していた愛銃(HK416)を手慣れた手つきで撃てる状態にしていた。
「さて、話がそれてしまいましたねリレイさん、結局あなたの望みは何ですか?」
場が静まったことを見計らってワタは本題を切り出した。
「“望み”ですか、願わくは捕虜としていただきたいのですが、あそこまでしてしまった手前そんなことはかなわないでしょう?でしたらここで見届けられながら果てましょうか……ですが、ここの兵たちは見逃してください」
リレイは覚悟のこもった思いをこれまた静かにただしっかりと伝えてきた。
しかし次の瞬間、今まで余裕そうにしていた態度から一転、今にも泣きだしそうな少女のようになってしまった彼女の態度の変わり様に、俺は驚いていた。
「リレイさん?そんなことを私がするわけがないでしょう?むしろ降伏してくれるだけでこちらにとっては有利な条件だし、生き残ってもらってそれを交渉材料にすることだってできるんですからね?なんにせよここであなたを死なせる訳にはいきませんよ」
「まさか、そんなことを言ってもらえるなんて思ってもいなかったよ……正直ここで殺されると思ってたのに……」
そういうとリレイは何かを決心したように話し出す。
「わかりました。ではここで“帝国軍の将軍”としての私は死にます。その代わりに“王国の兵” として生まれ変わって見せましょう!」
すると、今まで軍服の胸に付けていた勲章や徽章等を引きはがしていった。
「これは私の覚悟の証です、あなたの軍門に下らせてください!」
そう宣言したリレイは椅子から立ちあがり頭を深々と下げた、するとそれにならってか後ろにいたユリーシャや周りにいた兵士たちも帝国軍から供与されていたものを地面に捨て、最上位の敬礼をしていた。




