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52.戦いを終えて


 一方帝国軍の軍勢を退けるどころか一方的に“つぶした”ハミルトン側は、皆安心しきって深い眠りについていた。

 そんな夜も何事もなく過ぎ、また新たな日が来ようとしていた


 朝テントで起きた俺は、腰痛に悩まされながらも、LiSMで召喚した缶コーヒーを飲みながら眠気を覚ましていた。

 陛下と呼ばれる身でありながらも城内でなくこのテントで寝起きしていたのは疲れて城内まで行く気がしなかったからである。


 別のテントでは、さすがの連戦で疲れたのかあの怪力を発揮していたキューレやギルドマスターのエレザでさえ寝息を立てていた。


 そんな俺のところに、見慣れた顔がやってきた。


「おはようございます、陛下、起きた直後に申し訳ないのですが、エレシア閣下からお呼び出しがあるようなので、そのまま私にご同行願えますか?」


 ローレンスは疲れていることをまるで感じさせないような、さわやかな笑顔で問いかけてくる。


「エレシアが?わかった、行くよ」

「丁度、朝食もご用意されているようなので」


 そのまま、ローレンスはエレシアがいる一室の前まで案内してくれた。



「では私はここで失礼させて頂きます」


 扉の前まで来てくれたローレンスは、深くお辞儀をしながら、俺の返事を聞かずに静かに去っていった

 扉の前に一人取り残された俺は、そのまま立っているわけにもいかず、扉をノックし返事も聞かずそのまま部屋の中に入っていく。


「失礼するよ、場所はここであっているかな?」


「おはようございます陛下、わざわざここまでご足労願いありがとうございます、立ち話もなんですのでどうぞ席におかけください」


 挨拶をしてきたエレシアは、白いモーニングコートを着ていて、昨日の恰好とはうって変わって部屋に差し込む朝日も手伝ってとても美しく見える。


 部屋にはエレシアしかおらず、部屋の真ん中には小さな白いテーブルと二つの椅子がおいてあり、そこにはパンとサラダと紅茶のようなものが並べられていた。


 そのまま俺はエレシアと向かいになっている椅子に座る、俺が座ると同じようにエレシアも座る


「いや、ちょうど朝ご飯も食べてなかったことだし、むしろ用意しておいてくれてありがとう」


 するとエレシアは恥ずかしそうに顔を下に向け、何も言えなくなりそのままちょこんと椅子に座ってしまう


(ん?何かしたかな?)


 しばらく、何も反応がなかったのでそのまま置いてあった料理に遠慮なく手を付けた。

 そのまま、俺が食べ続けても、エレシアは固まったまま動かなかった。


「……で何か、俺に用があったのかな?」


「そ、その、えと、い、一緒にご飯が食べれればと思いまして……お気に触られましたか?」


「いや?俺は美女と朝ご飯を一緒に食べれて光栄だね、この後メリアになに言われるかわからんけども……」


「あ、ありがとうございます」


 エレシアは顔をリンゴのように真っ赤にさせながら、ゆっくりとパンを食べ始めた

 しばらくすると落ち着いてきたのか、静かに話し始める。


「今回は本当にこの城をお救いくださり心より感謝しております、陛下が今頃ここに助けにいらしていなかったら、もうすでにこの城は敵の手に落ち、私はこの世に存在していなかったことでしょう、今のこの平穏な時間があるのも陛下のおかげです」


「そんな大層なことを俺はしていないよ、そもそもここに辿り付けたのは、エレザやシルヴィア達が付いて来てくれたお陰だから、それに今回の戦いだってここの人たちの助けがなかったらあんなにうまくいっていなかったかもしれないよ……しかも昨日だけでもこの手で数多の命を奪っていってしまったし」


 この戦いで俺は、今まで日本という馬鹿みたいに平和な場所で育ってきた自分が馬鹿らしくなってきた。


 もちろんその時も世界中で戦争が行われてきていたが自身の生活には何ら関係なかった、しかし、実際に自分の身に降りかかる死の恐怖を味わうと、人は自然にその環境も普通に思い、殺めるのもなんのためらいもなくできてしまうのだと思い知らされた。


 そのまま二人に気まずい空気が流れてしまい、二人は食事を静かに済ませて終わった。

 ただ、エレシアは俺が去っていくときも何も言わずに、笑顔で見送ってくれた、まるで何かに満足したかのように――


 静かに部屋から出た俺は釈然としない気持ちのままテントへと戻っていった。


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