498.避難2
後宮から避難している途中にエイダに会えた。
彼女は以前、男装に身を包み仕事上目立つ事なかったが、後宮大臣となってから印象は大きく変わり、銀色の髪飾りをつけ、胸の部分が大きく開いた白いロングドレスを着用していた。
「エイダ、君は避難しないのか?」
「陛下、この身を案じて下さり光栄です。しかし、私は陛下のこの“花の園”を守る義務がございます、私はこのまま現場の指揮を執ります」
「そうか、頼んだ。そういえば、地下の研究所はどうなった?」
地下研究所ではかなり重要な研究を行っており、そこを魔物達によって襲撃されてしまうと、様々なものが失われるので非常によろしくない。
魔物が研究所をそのまま“苗床”としてしまった場合、収拾がつかなくなる可能性を孕んでいる。
「研究所に関しては現在研究所専属の警備隊が防衛を行っており、研究所内のものに関しては既に地下にあるシェルターに待避させているので問題はないかと思われます。万が一最悪の事態となった場合は、後宮ごと爆破いたします」
「そうか、くれぐれも無理はしないでくれ」
「はい、お任せください。それでは」
俺との短い会話を終えるとエイダは颯爽と去っていった。
「陛下、急ぎましょう」
「そうだな」
しばらく彼女の後ろ姿を眺めていると、エミリアに避難を促されたので、足早に城へと向かう。
城の地下にあるシェルター兼指揮所に付くと、先に避難していたメリアとユリアがいた。
メリアは俺が入ってくるなり、ものすごい勢いで俺に正面から抱きつく。
「メリア、ここにいたんだ、よかった無事で」
「ワタも無事でよかったわ、それと千代姫と琴姫も一緒なのね」
「ああ、何が起こったのか全くさっぱりだがな。それにしても、こやつは良くこの状況でも寝ていられるな」
琴姫は此処に来るまでエミリアの話をほとんど聞いていなかったが、よくない状況だと察し、目を覚ましていた。
しかし、千代姫に至っては相当眠気が強かったようで、避難途中抱きついていた腕から崩れ落ちてしまい、今では俺の背中でぐっすり寝ていた。
「まあ、ここに来れば一先ず安心だからいいけどね……」
危機感のまるでない千代姫にメリアは呆れていたが、背負われている状況がうらやましいのか、少し拗ねているようにも見える。
「ユリア、城の周辺の状況は?」
俺は後宮に発生したダンジョンが王都につながり被害が出ていないかと心配に思い、近くにいたユリアに外の様子を聞いた。
「ダンジョン発生の報をエイダ大臣から受けてすぐ、アルダート城から半径30㎞圏内に緊急避難命令を出しております。現在は住民の避難は8割完了しており、半径30㎞圏内には各法執行機関の武装部隊凡そ6万と近衛陸上総隊全部隊、国家憲兵1個師団、陸軍中央歩兵集団等が王都の建物の上から地下道、駅全てに展開しております。また万が一魔物が王都にあふれる事案に発展した場合は陛下に王都から50㎞圏内に緊急勅令にて緊急事態宣言を発令して頂き、事態が収拾するまで国民の一切の立ち入りを禁止したいと考えております」
ユリアから矢継ぎ早に報告を受ける。
これまで幾度となく王都も危険にさらされ事件が発生してからその都度現場で対処してきたが、今回に至っては早めに避難と対策を行っていないと悲惨な結末が待ち受けているという事もあり、すぐに住民を避難させ、動かせる軍や法執行機関を総動員させていた。
「わかった、それが必要になるときが来ないように祈っているが、万が一の時はすぐに言ってくれ」
「御意。それと陛下、万が一の事を考えて女王陛下と千代姫様、琴姫様と共にハミルトン城へとお逃げください。心配し過ぎかもしれませんが、今はそちらが安全と思われます。」
ユリアは俺やメリア達にアルダート城内に居ても危険だろう判断して、エレシアの居るハミルトン城への避難を勧められた。
「ユリアの言う通り、ここももしかしたら危険かもしれないから、ハミルトン城へ避難するわよ。それとエレシア姉様が待っているし、ね?」
「そうしよう。それならユリアもハミルトン城へ避難するんだ。君の身の安全も大事だからな」
「私もこちらに残って指揮を……」
「これは命令だ、後はセレナとエイダに任せるんだ」
「承知いたしました、それでは早速参りましょう」




