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44.老兵ローレンス

 城壁の門の前まで車をつけ周囲を警戒しながら再び降車する。

 敵兵が瓦解したため、門は閉じずにそのまま開いており、角から城内の兵士が恐る恐るこちらの様子を窺っている。


 何も迎えもないことにいら立ちを覚えたのかサクラは真っすぐに城門へと向かっていく。


(まぁ、こんな状況で、得体も知れない物を持った奴らに近づく奴なんていないよな……)


「ハミルトン城の兵士たちよ!今しがた王都より援軍に参った中央軍所属ダベルグ・サクラというものだ!現場指揮官にお目通り願いたい!」


 門の前でそう名乗ると、城内では焦ったような動きを見せ少し経つと、奥から数人の護衛を連れた兵士がこちらに向かってきた。


「私は前線のハミルトン親衛隊隊長をやっております、アラバスタ・ローレンスと申すもの、援軍に来てくださり、感謝申し上げます」


 ローレンスと名乗った初老の兵士は、見た感じは物優しそうで、堅苦しさがない印象だ、ただ頬や目にある傷が歴戦の戦士だったことをうかがわせる。

 しかし、少人数だけの援軍だと思ったのか、少し顔が曇っていて、不安も拭えない様子だ。


「少数ながら先遣隊としてこちらに参った、貴殿はハミルトン親衛隊だといったが、ここの総指揮官は何処におられるか知っているか?書状をリメリア閣下から渡すように今預かっているので、案内していただきたいのだが」


「ハッ、ただいま伝令をエレシア様に使わせるので暫しお待ちを……それと少しお伺いしますが、先ほどあなた方は、おそらく2万は下らなかったであろうあの敵軍をいかようにして撤退させたのでしょうか?」


 どうやらローレンスはいまだにあの大軍の中をいとも簡単に進んできた我々の力に疑問を抱いているようだ。


「良し!いいだろうまだ時間があることだし説明しようじゃないか……ということでワタ殿ご説明願えるか?」


 そういって、サクラは俺に説明を丸投げしてきた。


「えっっ!自分で説明出来るでしょうに……まぁいいです、初めましてローレンスさん、今回の出来事を少しだけ説明して差し上げましょう」

「えぇ、お願いしますワタ殿、その前に、質問を答えていただいているときにこんなことを聞くのはなんですが、あなた様の身分はどのようなものなのでしょうか?」

「そのことですが、一応訳があって今は王族に身を寄せるものになっています、そして今回の――」


 長話をしていると敵にまた襲われてしまうので、掻い摘んでこのことを伝えた、そうすると途端に曇っていた顔もわずかながら晴れ、安心した顔になった。

 このことを聞いた護衛の兵士たちも頼もしい援軍が来てくれたと思ったのか、安心からの笑みがこぼれる者がいた。


 ローレンスのことを聞いてみると、どうやら先の大戦でも戦ったようだが、戦いで受けた傷と年齢もあって、兵役から退いていたようで、このハミルトン城への帝国軍侵攻を聞いたローレンスは最後の奉公としてここのハミルトン親衛隊隊長を務めている。

 そんな話をしているうちに、先ほどの伝令が帰ってきた。


 伝令の兵士が帰ってくると同時に一緒にやってきたのか、傍には女性兵士が立っていた。


「お待たせしました、居館内でエレシア様がお待ちです!」

「報告ご苦労、ゆっくり休んでいなさい、またいつここに攻めよってくるかわからないからな」

「ハッ!ありがたく休ませていただきます!」


 伝令が兵舎に向かっていくのを見届けた後、女性兵士に促されて城へと足を向ける。

「ローレンスさん我々はここで失礼させて頂きます、またお会いしましょう」

「今度は戦場で会うことになりましょう、その時はこの城を頼みましたぞ」


 ローレンスさんは別れ際に寂しそうな顔をしてそのまま護衛の兵士たちと共に立ち去ってしまった。


「では、私が領主様の居館へとご案内いたします」


 先ほどの女性兵士がそういって居館へと歩き始めた、まるで“付いてこい”とでもいうように。


「さて、行くとしましょうか」

「何か、気に入らんが行くとするか」


 皆何故か女性兵士に対していいように思っていないようだが、渋々ついて行くことにした。


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