482.スーパーマーケットウォーズ(後編)
「皆さん、お疲れ様でしたー!!」
トリックスの声と共に観客からの拍手が送られた。そして俺達に料理が運ばれる。
まずはエビファイの料理が置かれ、見たところステーキのようだ。
「オニオン・ランプステーキです」
ランプとは腰からお尻、ももにかけての部位で肉質はキメが細かく、比較的に柔らかいらしい。しかも脂っこさが無いので他の肉と比べてカロリーは控えめだ。
そしてエビファイはこの料理を作るときにすりおろした玉ねぎを塗って冷蔵庫で冷やし漬けていた。こうする事によって肉が更に柔らかくなる。
俺はナイフを入れるとそんなに力も入れていないのにスッと肉が切れる。元にいた世界のレストランとかで食べたステーキを切るときは中々切れなくてストレスが溜まってしまったが、こんなにも切れやすいのは初めてだ。
そして味もバターの風味と胡椒のスパイスが完全調和している。一緒に出された赤ワインと相性がとても良く、最早スーパーマーケットで購入して作った料理とは思えない程だった。
メリアとマリー女皇も幸せそうに食べている。これは間違いなく一回戦突破できるだろう。
続いてはマスルが作った料理が運ばれる。見た目は焼売なのだが、皮が生ハムで包まれている。
「カニ焼売デース。メインディッシュにもお酒のつまみにもなりマース」
このカニ焼売はカニ肉、豚ひき肉、みじん切りにした玉ねぎを練って通常の焼売の皮ではなく生ハムで包みフライパンで蒸し焼きにした料理だとマスルは言う。
一口サイズで食べやすく、カニと生ハムが意外と相性が良い。これなら何個でも食べられる素晴らしい料理だ。
次に料理長の一品、先程本人が言っていた鯛のカルパッチョ。口に入れると最初に塩胡椒によってパンチが効いていて後にレモン汁が後味をさっぱりしてこれもとても食べやすい。オリーブ油もただのオリーブ油ではなく、エクストラバージンオイルが使用されているみたいだ。このエクストラバージンオイルは生食と相性が良く口の中にこの香りが広がっていく。
「やっぱりエルの料理は美味しいわ」
マリー女皇はにっこりと微笑むと料理長は照れ隠しでコック帽を深くかぶった。
そして最後にバサリオンの料理……この料理は元にいた世界でも見たことはない。
(いったい、なんなんだこれ?)
トリックスが同じ疑問を持って質問すると彼はこの料理をカルボナーラチャーハンと言った。
「何故、この料理にしたんですか?」
「……両陛下が食べたことないと思いましてね。おそらくどこのレストランでも、どこの国でもこの料理はないと思います」
意味深な発言をしてバサリオンは笑っている。そしてこの料理を一口食べると……。
一見、カルボナーラソースがご飯と絡まることで卵かけご飯みたいな風味を取れるが、それを焼いたことによって進化し、黒胡椒と醬油でしっかりとチャーハンみたいな味を出している。斬新で新しい料理だ。
全ての料理を食べ終えていよいよ審査を始める。まず三人意見一致したのはエビファイの料理だ。この料理はずば抜けて美味しかった。
そして次にマスルのカニ焼売は蒸し焼きにしているが肉のジューシーさがしっかりと残っている。流石プロが作る料理と言ってもいい。
後は料理長とバサリオンの料理だが……これが悩ましいのだ。料理長は他の選手と違って魚を使用しており、何よりもお題ある“庶民の家庭料理一品”の条件が誰よりも優れている。
それに食材が少ないのも評価するべき点であり、誰にでも作れてこの料理を味わえるならまさに魔法の料理と言っていい。
しかし一方でバサリオンが作った料理は彼の言う通りこんなありそうでなかった料理は元の世界でも食べたことはない。いったい彼の料理教室では何を教えているのか気になるレベルだ。
マリー女皇は料理長が作った鯛のカルパッチョを推して俺はカルボナーラチャーハンが良いと意見が別れた。
(後はメリアが何て言うかだな………)
メリアは悩んだ末にまた食べたいという意味でこの料理を選んだ。
「私は……料理長さんが作った鯛のカルパッチョがいいわ」
この一言が決定打になる。それを聞いたトリックスは思わず叫んだ。
「第1回戦の勝者はエビファイ選手、マスル選手、そして料理長だー!!」
観客は盛大に拍手をするとバサリオンは満足そうな顔をして静かにステージから降りていった。




