476.もう一つの料理店
一方、ひと仕事を終えたキューレとシルヴィアはお昼休憩に入るとイルダにある店に向かっていた。
メイド達から聞いた話だとその店の料理を食べると“全てが上手くいく”と噂されているらしい。
「ここが噂のレストラン“ヘルシャフト”ね」
「いったいどんな料理店なのかしら?」
見た目は至って普通のレストランだが入店すると店内は満席になっている。
「キューレ、並んでいる客が結構多いから諦めない?この店は今度にして、他の店に行かない?」
シルヴィアは店の行列が思った以上に長いので、他の店に行こうと提案する。
「待ってシルヴィア!あそこ!」
キューレは他の店に行こうとするシルヴィアを止め、並んでいるとある客に指をさす。
よく見るとそこにはエレザとミレイユが並んでいた。
「なんだ、お前たちも来ていたのか!?」
「二人もここの料理を?」
「ええ、ここの料理を食べると全てが上手くいくって聞いたからちょっと気になっちゃって」
どうやら目的は同じみたいだったのでシルヴィアは一緒に食べないかと提案し皆それに賛成した。
しばらく待つと順番が回ってきてウエイトレスに席を案内される。
メニュー表を見るとエレザは何処かで見たことある様な料理名だなと思い、少し記憶をたどると「あっ」と思い出す。
エレザは以前ウェルフェナーダの戦いでオゼットと共にイスフェシア皇国に向かう最中、イェルガという町で腹ごしらえに店で食べた料理がメニュー表に書いてあったのだ。
特にシュニッツェルという料理は、ナイフで切って口に運んで噛むとじゅわぁーと肉汁が溢れ出す。あれはとても美味しかったとエレザは語った。
エレザの話を聞いた3人はそのシュニッツェルを食べたくなってウエイトレスに注文した。
雑談しながら待っていると4人のテーブルにドラゴンシュニッツェルのホワイトソース仕立てが運ばれて来た。その香りはお腹を空かせた4人にとっては刺激が強かった。
イェルガで食べた時とは違いホワイトソースがかかっている。試しにソースを口に運ぶとシチューの様な味とチーズの味が口の中で調和されていく……。
「なんだこれは!?」
「濃厚な旨味が広がって、そして味がしつこくない!」
「この衣が肉の旨味と香ばしさを閉じ込めているから、冷めるまで味が落ちることもない」
「ん……美味いな」
この料理を食べている間はまさに幸せなひと時。もしかしてこんなにも美味しいから食べると“全てが上手くいく”と噂されているのかとシルヴィアは考えた。そしてこの料理を作った人物とはいったい何者なんだ?
「というかドラゴン?この料理、ドラゴンの肉なの?」
「確かに牛肉でも豚肉でもないな。ドラゴンの肉は初めて食べたわ」
「ちょっと厨房を覗いてみないか?」
エレザは気づかれないように厨房にこっそりと近づいていく。
キューレは止めに入るが、食べたら全てが上手い料理とそれを作る人物が気にならないかを聞くと好奇心が勝ってちょっとだけなら……と一緒に覗きにいった。
シルヴィアとミレイユは料理を食べていたいと言って席から離れず食事を続けるのであった。
厨房の端に潜み、周囲を見るとそこには刃物が壁に刺さって天井は何かの血で染められて一部破損、調理器具が散乱している。
まるで戦場の地に来た気分だ。
「グオオオオオオ!!」
ミノタウロスが一人の料理人を襲うと料理人は包丁をぶん投げミノタウロスの頭に刺さる。
ミノタウロスを倒した後、料理人はミノタウロスを掴んで巨大なフライバンに運ぶと切り刻んで油を注ぎ炎の魔法でこんがりと焼き始める。
そして最後にワインをふりかけ、火を近づけると炎が天井に舞う。これはフランベというお酒の風味や香りをつける方法だと聞いたことがある。
カリッと香ばしくなるまで焼き上げたら皿に盛り付け赤色のソースで彩りを付けて完成する。
「ミノタウロスのポワレ20人前完成しました。運んでください」
ウエイトレスが料理を注文した席に運ばれていった。
この男は何者なんだ?




