475.筋肉的クレーム対応
厨房から出てきたのは料理人というより軍人みたいな肉体をした大男だ。
テーシャは小さな声で俺に「あの人が噂の店長、マスル・マチョさんです」と教えてくれた。
レナはクレーマーが暴れても対応できるように撃てる様に腰にあるHKVP9を構えるが、俺は少し様子を見ようという意味でその手を抑えた。
レナは手を握られたと勘違いして顔を赤くするとメリアは俺を見て頬をプクーと膨らませていた。
(メリア、何かと勘違いしてない?)
そうこうしているうちに店長が金髪の男に頭を下げて謝罪していた。
しかし、その目はなんというか人に謝る目ではなく。金髪の男を疑っているような目をしていた。
「ご確認させて頂きマスガ、お客様の料理に髪の毛が入っていたとの事デシタガ……」
「お、おう、そうだよ!」
金髪の男は店長のオーラのようなものを感じ、少し警戒する。
「ふーむ、見たところ髪の色が金色みたいデスネ……この料理を作ったのはワタシデスが、ワタシはこの通り髪の毛はアリマセン。ウエイトレスには全員バンダナを着けることを徹底してイマスし、そちらの料理を提供させて頂いたこちらのウエイトレスの髪は黒色デス。この髪の毛は本当に料理が運ばれた時点で入ってイマシタカ?」
カタゴトに喋る店長は鋭い目で金髪の男を見る。
十中八九あの髪の毛は怒鳴った男のものだろう。
(そういえば、異物混入したと言って店員に謝罪させてタダ飯を食うチンピラとか元の世界にもいたよな)
ある意味そういう人間はどこの世界にもいるんだな。
金髪の男が「俺を疑うのか!!」と怒鳴っていると近くの席に座っていた一人の女性が立ち上がる。
「私その男の人が自分の毛を引っこ抜いて料理に入れているところを見ました!」
「はぁ!?てめえぶっ飛ばされてぇのか!!」
金髪の男が女性に殴ろうとすると店長が男の拳を受け止めた。
「……ここは料理を美味しく食べ楽しむ場所デス。ここで暴力を振るうならアナタはお客様ではアリマセン。お帰りクダサイ」
「う、うるせえ!」
金髪の男が店長に殴った。
しかし、その強靭な肉体を殴った金髪の男だが、殴ったはずの男の方が苦悶の表情を浮かべうずくまった。
そして店の外からサイレンが聞こえてくる。
(さて、そろそろかな。)
「動くな、手を上げてゆっくりとしゃがめ!」
駆け付けた警察は暴れないように拳銃を向け警告を発しながら近づく。
金髪の男は自分が不利な状況にあるとすぐに悟り仕方がないとでも言いたそうな顔のまま両手を挙げる。
そしてそのまま拘束された。
「離しやがれぇ!!」
「おとなしくしろ!」
往生際の悪い男は男をパトカーに乗せられる前に少し暴れて見せるが、数人の警察官に無理やりパトカーに押し込まれたかと思うと、そのまま連行されていった。
店長は店にいるお客にご迷惑をお掛けしましたと謝罪しに回る。
そして俺達の席にも向かってきた。
「これは陛下!この度は大変お見苦しいところを見せてしまい申し訳アリマセン」
「いいえ、大変でしたね」
「とんでもゴザイマセン。陛下が連絡してくださらなければ被害が拡大していたかもシレマセン。本当にありがとうゴザイマス。引き続きドウゾごゆっくり食事を楽しんでクダサイ」
どうやらこの店長は俺が王立警視庁にこっそりとLiSMで連絡を取っていたことに気付いていたらしい。
店長は深くお辞儀をした後、厨房へと戻っていく。気を取り直して俺達はメニュー表から料理を選んでウエイトレスに注文をするのであった。




