456.休戦前夜
デスニア帝国首都ディシア
敗戦色濃厚となった今、デスニア帝国女帝であるディエナとその母レレーナはディシア城女帝公室内で二人は今後の帝国の行く末を決める大事な話し合いを行っていた。
「ディエナ、今回はアルセウスの提案を拒否したほうがいいと思うわ、しかもこんな生ぬるい交渉なんてあり得ないわ。これではコンダート王国がさらに有利な状況になってしまうわ」
レレーナが言う「提案」というのは、コンダート王国へ降伏するというものだ。
これは現状帝国領土の3分の2が執られてしまっている状況を重く見た帝国軍最高軍事顧問のハルト・アルセウスをはじめとする各軍の上層部や各行政府が協議の上、レレーナとディエナに向けて出され、現在戦争中のコンダート王国とエンペリア王国、出雲国の三ヶ国に「降伏」してはどうかという結論に至った。
これは帝国が主にコンダート王国によって領土の3分の2をとられた上、工場や基地、港といった重要拠点を次々に破壊されてしまい、戦闘に必要な後方支援が機能しなくなってきている事を受けての提案だった。
「お母さまのおっしゃる通りこの提案は拒否すべきです、ただ……」
ディエナはそういいながら机の上にある今回の戦争における被害についてまとめられた報告書を見つめながら静かに息を吐く。
そこにはコンダート王国軍から受けた被害が書かれていた。
軍への被害
戦死 334万7000名
戦傷 95万4800名
戦病死 5万6000名
行方不明 5万8000名(内4万5000名ほどが王国軍の捕虜になったと思われる)
飛空艇800隻以上 竜(竜騎兵用)5400騎 軍艦 3290隻
陸軍基地 修復不可 149基地 一時使用不可 23基地
海軍基地 53の港の内47が破壊 被害無しは1のみ
空軍基地 大型基地は全て破壊 非常用基地のみ
民間への被害 戦死 2300名 戦傷 235名
行方不明 218万9400名(内9割が他国へ避難したと思われる)
戦争関連死 5万8900名(主に食糧難による餓死)
工場等の生産拠点の被害
大型兵器工場 34拠点(全拠点中の8割)
中型兵器工場 273拠点(全拠点中の7割)
そのほか軍事関連拠点 2379拠点
国内の軍事製造業の8割が停止又は再起不能、補給・補修拠点も8割が再起不能。
この影響で軍への後方支援は絶望的。
これらはコンダート王国軍の空爆や艦砲射撃、弾道ミサイルによって破壊された。
その全ての攻撃から帝国軍は全く防御することが出来なかった為、このような被害になっている。
ほとんど全ての拠点又は基地は、夜間空爆によって破壊されていた。
艦船の被害は海戦によるものがほとんどだが、王国軍が敷設した各種機雷に触雷したことによるものも含まれる。
占領されてしまった地域は帝国領土のおよそ3分の2で南部地域全域、東部地域の9割、西部地域全域、北部地域の一部地域(南西部)、旧中央諸国連合地域全域とかなり広範囲に及ぶ。
「この被害を考えるとアルセウスの言う提案を承諾する事が帝国国民にとって一番いいことだとは思っているわ。ただ、あの男の言う通りになる事が気に食わないの!」
アルセウスはこの頃自身の権力強化を密かに行っているようで、その事を聞いているディエナは今回のような事をされてさらに腹立たしい気持ちでいた。
ただ、彼を国家反逆罪や侮辱罪といった罪に問わずそのまま野放しにしているのは、彼がいないと帝国軍が様々な派閥に分かれ分裂を引き起こしてしまいかねないと女帝の側近やレレーナが懸念しているからなのだという。
「確かにそうね、今回の提案をまとめるために行われた協議は事前に私が許可を出していたから、私は彼らに何とも言えないけれど、のけ者にされた感は否めないわね」
この提案はレレーナが言うように事前に許可を得たうえでアルセウスが各軍上層部や政府関係者、貴族を招集して行った協議で、これを簡単にレレーナが許可を出したのは「軍事予算に関する関係者協議」という名目だったからだ、この程度であればわざわざレレーナやディエナが出ていく場ではないので許可したという経緯があった。
しかし、これは名目とは反し、実際にはコンダート王国を主とする3か国に降伏か最低でも休戦するかという事を話し合っていて、この協議によって決定した提案は「宰相が許可した協議によって決定されたもの」という事である程度の実行力をもつ。
こうしたやり方で協議を進めたのは、確実にディエナとレレーナがこの協議をつぶしてくるとアルセウスが懸念していたからだろう。
「最近怪しい動きをしているっていう話を聞いているからそれもあるかもしれないし。どちらにせよこれは一回彼らを招集する必要があるわね」
「すぐに玉座の前に召集してくださいますか、これを無理やりにでも実行されたら“アレ”に支障が出るわ」
「そうね、すぐに呼んでくるわ。あなたは玉座で待っていてちょうだい」
「はい、お母様」




