453.経済状況
次に国内の経済状況について、イリアから報告があった。
「現在続いている戦争の影響で戦費がかなりかかっており、税収では補えきれず、既に国庫にあった備蓄財産を9割以上使い切ってしまっている状況です。このままいくと大幅な赤字となってしまいます」
「戦費は何が一番かかっている?」
一斉に侵攻したことにより、一番の経済大国であるこの国にも相当な財政負担がかかってしまっていた。
「一番多いのは兵士達に配給する食糧と衣類、水、魔法石等といった食品や消耗品にかかる費用がかさんでいる状況です」
「これまで召喚してきた戦闘糧食では足りなかったのか?」
俺は予めこの侵攻前にLiSMで全軍が1年間は食べていける量の戦闘食糧を召喚していた。
「兵士達だけを考えれば問題ないのですが、帝国から来た避難民や捕虜たちに配給する食糧が予想を上回ってしまい、そちらが原因で費用がかさんでしまっております。軍側は国内にあった備蓄倉庫から持ち出して負担軽減を図ってくれましたが、既にその備蓄も底が付いてしまっているとのことです」
それ以外にエンペリア王国軍に対しても緊急食糧援助を行っていたこともその原因の内だそうだ。
「先代国王が残してくれた財宝やらお金を放出すれば耐えられるか?」
アルダート城地下には先代国王や先々代国王といった人たちが代々、万が一の為の時に使えるようにとたくわえて来ていた財宝や金貨等がある。
「恐らく半年間は国王陛下の財産で何とか耐えられるでしょう。しかし、それでよろしいのでしょうか?」
「これ以上国民に負担を掛けるわけにはいかないからな。ちなみに半年を過ぎるとどうなる?」
「半年を過ぎたあたりからは、戦時国債を発行し赤字分を補う事になり、それがかなりの額に上る為経済的なダメージは必至でしょう。そうなると国民の不満噴出は避けられません」
「それは出来るだけ避けたいな……。そうすると極論だが、今から半年以内に帝国を完全占領するか、あるいは一定の領土を占領した休戦か降伏させるしかないが、それは現実的ではないな」
「そうなると後者の休戦を迫る事が一番現実的でしょう、あの帝国ですから降伏をのむとは思えません。前者について達成させるには2年は要するという分析結果が出ているのでこちらは非現実的です。実際にこれについては水面下で外務省の方で交渉を行っているようですので」
ユリアが言う外務省の交渉は開戦から2週間がたった頃から行われてきており、驚くことにこれは帝国側から持ち掛けて来たらしい。
内容としては当初、帝国側は王国側に対して領土内からの即時撤退を要望していたが、その頃王国側としては旧中央諸国連合の領地解放が行われていなかった為、それを断っていた。
同じような交渉は数回にわたって行われたが、難民と捕虜の扱いについて以外は合意が得られなかった。
その後、つい最近に旧中央諸国連合領内において外相会談が開かれておりその際にはお互いに大きな被害が出始めていた為かなりきつい条件をお互いが突き付ける形となってしまった。
「そういえば外相会談の時の資料があったな」
ふと俺はその時の資料がある事を思い出し読んでみる。
そこにはこう書かれていた。
デスニア帝国側提示条件
・即時領土内からコンダート王国軍並びにエンペリア王国軍の撤退
・賠償金6兆7000億メルを支払う事
・労働用奴隷400万人を寄こすこと
・捕虜の返還
・各軍の現代兵器を一式渡すこと
・帝国領土内への無期限不可侵条約の締結
・戦争犯罪人の引き渡し(国王及び女王、各行政大臣、各軍旅団長以上の指揮官全て)
コンダート王国側提示条件(エンペリア王国・出雲国合同)
・無条件降伏
・帝国南部及び西部、東部地域割譲
・コンダート王国及びエンペリア王国、出雲国への無期限不可侵条約の締結
・賠償金2兆7300億メル(3か国合計)
・旧中央諸国連合の主権回復
・3か国すべての捕虜返還
攻められるような理由をつくったはずの帝国側はこちら側に対しての要求がかなり多く、中には戦争犯罪人として俺やメリアや各大臣、軍の主要幹部といった面々を引き渡すようにと言ってくるありさまだった。
それに対してこちら側の要求は3か国合同で決めたものとなっていて、かなりあちらに不利な条件にしたつもりだったが、帝国側の条件と比べると、こちらの方が比較的優しいものになってしまっていた。
当然これは両国ともに受け入れられるはずもなく失敗に終わる。
しかし、この時に何も成果がなかったわけではなく、会談の最後に両国トップによる会談を開くことには合意できていた。
ここで休戦協定を結ぶことが出来ればこちらの財政難も多少は解決できるだろう。
「ここで、何とか休戦協定さえ結ぶ事が出来れば、当面の間は何とかなりそうだな」
「ええ、これならばこれ以上財政に負担がかからないと思われます。その会談はいつ行われる予定でしょうか?」
「5日後で、場所は旧中央諸国連合のアルデントだそうだ」
アルデントと言えば最近来たイミテシア王国第一王女の故郷だ。
「ではそれに向けて準備をなさらないといけませんね」
「……、また仕事が増えた……、いや、頑張らないとな!」
「では私はこれにて失礼します」
「ああ、ユリアご苦労様」
ユリアが執務室から出ていくと、俺は早速翼を授けるドリンクを飲み次の仕事に取り掛かる。




