447.束の間の平穏
宴会は月が真上に上がるころには終了し、両陣営の兵士達は二日酔いに悩まされながらも陣地へと戻っていった。
ここから昼まで戦闘行為が一切発生しないという事もあって、両陣営とも完全に気が抜けリラックスした状態で眠ることが出来た。
たった数時間過ごしただけだったがお互いが敵味方関係なく、普通の人間同士で話し合っていた事で一部の兵士には情が湧いてしまっていた。
しかし、昼を越えるとこれまでは敵味方関係なかったが、これからは再び敵になる。
昼前には一時身柄を拘束されていた副守備司令と戦車小隊長はここまで来た戦車小隊が迎えに来て帰っていった。
その後、第26機甲師団隷下の大隊指揮官や中隊指揮官約12名が師団長の元へ訪れていた。
「何とか、攻撃しない手はないのでしょうか?彼等にもう一度降伏勧告を受けてみても良いのではないのでしょうか?」
彼らは直接帝国軍兵士から話を聞いていくなかで、彼らだって当然我々と同じ人であって殺し合いは望んでいないという事を改めて知ることになり、それ以外には、そもそも最新の武器に対して対抗手段を上級魔法しか持たない帝国軍が勝てるはずがないという意見もあった。
その対抗手段を得るためには、盗むという恥ずべき行為をしてでもエンペリア王国軍から兵器を盗み出すしかなかったという事を言っている者もいた。
そんなほぼ抵抗できない帝国軍に対して、ここに来た部隊指揮官クラスの士官たちは、せめてこれ以上攻撃して下手に犠牲を増やさずに済む方法として、目の前にいる帝国軍部隊に対して降伏勧告を行えないか、具申しているのである。
「君らの言う事はわかる。しかし、これは戦争だ、先程までは一時的に休戦していただけだ。ただこれからは再び敵として彼等を撃破しなければならない。これは両陛下並びにローザ殿下の御命令だ。それに従い命令を遂行するのが我々軍人だ。そして彼等も同じ軍人だ、帝国上層部や女帝陛下からの命令には逆らえないはずだ、そもそも降伏するならとっくに昨日しているはずだしな」
すでにローザから命令を受けているという事で師団長には彼らの意見は聞き入れられなかった。
昨日師団長が受けた命令の中に「一時休戦という提案を彼らがのんだ場合は再度の降伏勧告を行わず、予定時刻過ぎたら問答無用で攻撃開始せよ」とあったからだ。
「しかし!」
「しかしもくそもあるか!混成集団指揮所から攻撃命令がきているんだぞ、つべこべ言わずに攻撃開始しろ!そろそろ空軍の爆撃と第5砲兵師団が砲撃始めるぞ!」
「「「りょ、了解!!」」」
一時休戦の予定時刻の正午が過ぎてすぐ、ディア砂漠上空で待機していたコンダート王国空軍のB-52爆撃機24機とエンペリア王国空軍のB-29爆撃機48機による空爆が開始された。
それを合図に第3機械化歩兵軍団は進軍を開始、第5砲兵師団は全ての火砲による砲撃を開始した。
全ての部隊が攻撃を開始してから少し遅れて第26・27機甲師団は前進を開始、前進しながら帝国陣地へと猛烈な砲撃を加えていった。
この攻撃によって防御陣地に立てこもる帝国軍は今回の攻撃からも地下施設や深く掘った塹壕等によってある程度耐えることが出来た模様で、接近してきた戦車や歩兵に対して銃撃を浴びせていた。
しかし、そんな帝国軍に対して混成集団は容赦なく攻撃を続け、地下施設に立てこもる帝国軍に対しては火炎放射器や爆薬でしらみつぶしにしていった。
こうして、ディア砂漠にあった帝国軍陣地は混成集団による僅か1時間の総攻撃によって陥落。
陣地にいた帝国軍は294名の捕虜(全て負傷兵)以外の1万1000余名は全て戦死若しくは行方不明となった。
対して混成集団の被害は戦車6両擱座、歩兵戦闘車12両撃破、戦死傷者341名となった。




