444.使者
何とか攻撃を辞めてもらったコンダート王国陸軍第26戦車大隊第261小隊の副小隊長と第2分隊長は、白旗を掲げながら帝国軍陣地へと足を踏み入れていった。
入ってすぐM1ガーランドとM1911で武装した帝国兵2名とどこかの部隊長と思われる士官1名が待っていた。
しかし、2人の兵に関しては腰のホルスタのボタンの上に手を置いていることから、“待っていた”というより待ち構えていたといった方が正しいようだ。
「一体どういったご用向きでしょうか?」
「ここの司令官にエンペリア王国王女殿下からの手紙を渡したい」
「わかりました、こちらへどうぞ」
手紙を渡すだけだと士官に伝えると、思った以上にすんなりと受け入れてくれ、司令官の元へと案内をしてくれた。
しかし、近くにいた兵士2名は警戒を一切緩める様子を見せないまま、副小隊長と第2分隊長の後ろに付いていた。
士官に案内され陣地内を歩く副小隊長と第2分隊長は殺気に満ちた空気の中、無事司令官のいるという半地下の指揮所へとつく。
「守備司令!コンダート王国軍の使者をお連れしました!」
「入ってもらえ」
「はっ!」
士官が指揮所内にいる司令官を呼ぶと、部屋の中からぶっきらぼうな声だけが聞こえて来た。
司令官が使者を部屋にいれるようにと言うと、士官は首だけで副小隊長と第2分隊長に中に入るよう指示する。
「失礼します!」
「ご苦労、それで?」
「はっ、エンペリア王国王女殿下より帝国軍陣地防衛司令官宛の手紙をお持ちいたしました」
「エンペリア王国王女殿下だと?」
「はっ」
司令官は目の前にいる軍はコンダート王国軍であってエンペリア王国軍ではないはずなのに、彼らが持って来たのはエンペリア王国王女殿下だという事に少し引っ掛かりを覚えてしまう。
とはいえ、王女殿下という国の上層からの手紙となれば無下にするわけにもいかないので、持って来た副小隊長に渡すように促す。
「どれ……、降伏か一時休戦か選べ……、か」
「はっ、なお回答期限は3時間後、回答が得られない場合は直ちに攻撃を開始いたします」
「回答方法は?」
「回答方法は、貴国軍陣地より6時方向に展開中の我が第26機甲化師団司令部まで司令官若しくは委任状を持った士官が直接お越しくださいますようお願い申し上げます」
「わかった。とりあえず君たちは帰りたまえ。それと、先程の“無礼”は私からお詫びしよう、すまなかった」
「では、失礼いたします」
王国軍の使者が帰ると守備司令は手紙に書かれていた降伏と一時休戦かという選択を決めるべく、近くにいた警備兵に通信所にいる参謀を呼ばせる。
しばらく、すると通信所から参謀が帰って来た。
「いかがでしたか?」
「ああ、奴らはとんでもないものを持って来たよ。それがこれだ」
「拝見いたします……、正気ですか?」
「ああ、彼らは本気だ」
そこに書かれていたのは「無条件降伏か一時休戦かの二択どちらかを選べ」というものとは別に「どちらを選んだとしても、今負傷しているであろう貴国軍兵士の治療の支援を行おう」というものだった。
これを見た参謀が驚きを隠せないのは無理もない。
二つの選択肢の内どちらをとってもこちらにもメリットがあるからだ。
「しかし、これには何か裏があるように思えて仕方がありません」
「そうだな、しかし、水もなく医療品が圧倒的に不足している今、ここは一時休戦をしても良いのではないかと思う」
守備司令はサンドワームの攻撃やこれまでの王国軍による砲爆撃によって大量に出てしまった負傷兵の内6割以上が医療品不足により十分な治療を受けられないという悲惨な状況になっているという現状。さらにこの数日間で水の備蓄が完全になくなってしまったことから、一時休戦をしようと考えていた。
そうすれば、王国軍の支援を一時的に受けられるようになるというので、それで少しは持ち直すことが出来るという判断だ。
「残念ながら、今我々は王国軍の一時休戦という提案を受けるしかないと思います。ただ無条件降伏はあり得ません」
「そうですね、ここで両方の提案を蹴ってしまってもいいですが、その時は満足な抵抗をすることなくあっけなく全滅してしまいます。それなら、一時休戦をして戦力を少しでも回復させてから望む方が良いでしょう。参謀の言う通り無条件降伏は飲めません」
気づけば副守備司令が参謀の隣に立っていた。
王国軍の2人を送ってきてすぐ、この手紙の内容が気になって戻って来たのだろう。
「副守備司令もそう思うか……。良し、では副守備司令、行ってくれるかね?」
「はっ!お任せください」
「わかった、少し待ってくれ……」
守備司令はエンペリア王国第一王女殿下宛に「我一時休戦ヲ望ム」という内容の手紙をしたため、それを副守備司令に手渡した。
「これを頼む。行くときには念の為一個戦車小隊を引き連れていくといい」
「はっ、では」




