437.フロントライン
帝国視点
ディア砂漠を制圧され国境を越えられてしまうと中央軍区の兵達が半包囲されてしまい不利な状況に陥ってしまう為、最低でも国境の防御線の構築が終るまでの時間稼ぎをしなければならない。
帝国南部、東部地域のほとんどが王国軍によって占領若しくは侵攻を受けており、このままの勢いであれば西部地域が占領されるのも時間の問題だろう。
しかし、そういった状況におかれている帝国軍には兵員の余裕がなくこの重要な最前線にさえ援軍を送る事が出来ない状態にあった。
またこの地域は現在の対王国戦線の中でも最も突出した場所に位置しているため、さらに支援を受けにくくなってしまっている。
補給に関してはかろうじて一番近いファフスブルクの町から送ってもらい弾薬に関しては十分な量だったが、食糧に関しては1万を超える兵力を賄うには圧倒的に少ない。
最近になって補給中の部隊が王国軍による爆撃をうけるようになってきたので、そろそろ補給が止まる可能性も出て来ていた。
ディア砂漠防衛基地に帝国軍が進駐してきてから2か月目
陣地構築が済み、2週間は戦えるほどの弾薬の運び込みも完了していた。
兵力は1万5750名で、エンペリア王国陸軍から奪った戦車20両と榴弾砲15門が配備され、一般兵士たちは全て奪った機関銃や小銃等を装備している。
防御陣地は正六角形になっており中心地から各先端部まで4㎞と広大なものになっている。
この広大な陣地内すべてに地表から3mの深さの塹壕が張り巡らされており、その塹壕は全て木材や土嚢によって補強されているのである程度の銃撃や砲爆撃にも耐えられるようになっている。
また、爆撃から兵員や兵器を防護する為の塹壕直下には地下施設もあり、その中に指揮所や本部、野戦病院といったものもあり、これらは全て地下通路によってつながっている。
しかし、陣地構築が完成すると同時にエンペリア王国陸軍とコンダート王国陸軍の連合軍がこちらに迫ってきていた。
迫ってくるにつれコンダート王国空軍による空爆が激しさを増すようになり、一回で受けた一番大きい被害は戦車6両が撃破され1両が中破(右履帯損傷)、榴弾砲5門破壊され、戦死傷者と行方不明計1672名に上った。
これは偶然攻撃に備えた訓練の最中に襲われた為被害が拡大していた。
しかし、それ以外の空爆では塹壕の一部や無人の兵舎が破壊される程度の被害に抑えられていた。
ここまで被害を抑えられたのは頑丈に造られた塹壕や地下施設のおかげだ。
陣地を構えてから3ヶ月後。
一番重要な水がそこをつき始めていた。
原因は単純に補給の途絶だ。
さらに砂漠地帯という喉が渇きやすい環境も拍車をかけていた。
一週間前から補給物資が届かなくなっており、確認に行かせた部隊からは「補給路の途中に荷車が破壊された残骸が散らばっていて上空には王国軍が常に飛んでいる」という報告がきていた。
間違いなく王国軍によって補給部隊が攻撃されたのだろう。
今の帝国空軍西部管区にはまともに動ける部隊がいないため、この補給路の制空権を取り戻すことは不可能だ。
「王国軍の位置は?」
「この砂嵐という事もあり、こちらから王国軍を視認することが出来ない状態ではありますが、あの王国軍と言えど、この激しい砂嵐の中を無謀にも行軍してくるとは思えませんので、4日前の情報から変わりがなければ、当基地から南に6㎞の場所から動いていないと思われます」
しかし、この情報は双眼鏡で確認されただけで、実際の距離と敵の兵員の数まではわかっていなかった。
「斥候は行かせたのか?」
「天候が良い時に3つの小さい部隊に行かせましたが、どの部隊も敵を発見できず戻ってきております」
「役立たたんな。罠の設置は?」
「はっ、エンペリア王国軍から奪った対人地雷と対戦車地雷や爆発魔法を付与した魔石を連合軍が侵攻してくるであろう南側に集中して敷設しております。また、各塹壕の間には鉄条網を設置。さらに塹壕や地下施設、重要施設等といった重要地点には爆弾を仕掛けております」
設置した爆弾の一部にはコンダート王国から盗み出してきたC4爆弾が、指向性地雷には“クレイモア”も含まれている。
「それに関しては見事だな、これで敵も簡単に攻めてこれまい」
「間違いありません」
ディア砂漠前線基地はこれまでの帝国軍の防衛施設としては一番強固なものとなっているので、連戦連勝のコンダート王国軍であっても攻略が難しくなっている。
「水と食糧はどれぐらい持つ?」
「このままでは持って3日……、いえ、6日でしょう。しかし、この砂嵐が止まない限り、王国軍が攻めてこないと思われます。よって敵とまみえる間もなく死ぬかもしれません」
補給路が断たれてから数日間ずっと砂嵐が止む様子を見せず、砂嵐という過酷な状況でも活動できるような装備を持たない帝国軍は完全に動けずにいた。
そのため、水や食糧といったものがただただ減る一方であった。
「もとより死ぬ覚悟だ、水がなくなっても3日は持たせられるだろう……、いや持たせろ。いざとなったら敵から奪うんだ。君は弱音を吐く前に努力をして見せたまえ」
「はっ、失礼いたしました。そのように兵に通達いたします」
「ここで奴らを出来るだけ足止めしなくてはならない、厳しい戦いになる事も兵に通達しておけ」
「はっ」
翌日、砂嵐がさらにひどくなり、砂丘のうねりもひどくなっていた。
そんな中、警戒に当たっていた兵が異様な光景を目の当たりにした。
「あれはなんだ!」
「どうした!」
彼目の前には数本の柱のようなものがそそり立っていたのだ。
「あ、あれはサンドワームだ!」
そう、目の前にそそり立つ柱のようなものというのは、巨大化したサンドワームという砂漠のみに生息するモンスターであった。




