436.ディア砂漠にて4
「ところでウィルアス、威力偵察をして損害を与えたとはいえ、まだ敵の歩兵は8000以上もいるのよね?」
「はい、敵は我々で言う1個師団の兵力を展開している状態です。今回の威力偵察で与えた損害は少なくないですが、それでもまだ8000近くの兵が残っているので、アスカ閣下がおっしゃっていた通り、いくらこちらが最新兵器を装備しているからと言っても彼らが守る強固な陣地を突破するのは簡単ではなさそうです」
敵陣地への空爆や砲撃によってある程度は敵を減らすことは出来るが、敵前線基地を完全に無力化する為には塹壕にこもっている敵を掃討しなければならず、必然的に歩兵が塹壕へと入り敵歩兵との接近戦を行う事になるので、そうなると兵器の差は関係なくなり、局所によっては苦戦を強いられる可能性がある。
それがわかっているアスカとウィルアス達は、今回の敵基地への攻撃を簡単な作戦ととらえていない。
「それなら空軍に爆撃を要請して、ナパーム弾を使用すればある程度は敵の戦力を削ぐことが出来るでしょう?」
「ナパーム弾であれば塹壕に潜む敵も一掃できるかもしれません」
ウィルアスはローザのナパーム弾を使った空爆という提案に一定の理解を示していたが、彼女の表情は硬いままだ。
「それと……、地形が変るほどの砲撃を加えれば、こちら側の犠牲を少なく出来るわよね」
「それであればかなり少ない被害で済む事でしょう、ただ……」
「ただ?」
「これは、未確認の情報ですが、敵は基地周辺に我が国から奪った対人地雷や対戦車地雷を敷設している可能性があるという情報も上がってきております」
ウィルアスが部下から得ていた情報の中に、盗まれた兵器の中に対人・対戦車地雷も含まれているという情報があり、それらはディア砂漠に構えている敵が自身の基地周辺に敷設している可能性があるのだという。
ただどれぐらいの量がどこにまかれているのかまでは確認できていないらしいが、敵基地の目前という危険地帯という事と天候が回復しないという事もあってその確認作業は困難を極めていた。
「それは危険ね、ある程度の位置さえわかっていれば工兵隊に処理を命令できるのだけれど……」
「これに関しては、補給とコストを度外視して基地周辺にも爆撃と砲撃をしてもらい、無理やりにでも地雷を処理することの方が危険度は低くなるかと思われます」
「そうね、あとは先頭の戦車に地雷処理ローラーを装備させて進撃させればいいでしょう」
ローザが言う地雷処理ローラーというのは、戦車の前面にハンマーが付いた回転機構に取り付け、地雷を掘り起こす、押しつぶすといった方法で地雷を爆破処理するもののことだ。
「未確認であっても、備えて置いて損はないわ、進軍予定の戦車部隊に装備させるように命令しておいてちょうだい、それと機械化歩兵軍団には地雷を処理した区域にはなるべく近づかないように命令しておいて」
「はっ!」
「他に何かある?なければこれで解散にするわよ」
「殿下、最後によろしいでしょうか?」
報告が一通り終わり、ローザは解散しようとしたがアスカが手を挙げた。
「いいわよ、アスカ」
「はっ、ありがとうございます。最後に帝国軍による夜間突撃等に警戒するべきだと思います。こちらも統合参謀本部情報総局が最近もっとも気を付けるべき帝国軍の行動として警告を発しております」
最近どの戦線でも帝国軍兵士による夜間強襲が増加傾向にあり、恐らく彼らは夜間であれば王国軍も反応しづらいだろうという考えからその手段をとっているのだと考えられる。
それにより初期の頃は少なくない被害が出ていたようだが、その情報が全軍に広まってからは、暗視装置を装備した兵が常に警戒している為、完全に被害が出なくなっていた。
「そうね、暗視装置があるとはいえ、奴らは何をしてくるかわからない時があるから、警戒しておく方が良いわね。このことについても各部隊に夜間の警戒を怠らないように命令しておいてちょうだい」
「「「「了解」」」」
「では解散」




