431.裏切り
彼らの事を猛烈に批判したのは近衛第5師団師団長のフィネス・アスカ中将だ。
彼女はローザの補助と警護するために部隊ごと派遣されていたのだ。
「アスカ中将閣下、お言葉ですがこれは我々にとっての礼儀でもあるのだ。こちらの問題に口を挟まないで頂きたい」
アスカ中将の批判に対してガルド中将は口を挟むなと言い放つ。
「いや、君らには感服したよ」
ローザはその様子を見て大きく頷いていた。
「それでは……」
同意を示してくれたと思ったガルド中将は少し表情を緩めローザに近寄る。
「馬鹿も休み休みに言え!ここまでガルドが馬鹿な指揮官だとは思わなかったよ。なぁ、ウィルアス」
「ええ、王女殿下のおっしゃる通りです、こんな愚か者が我が国にいると思うと恥ずかしくて表も歩けませんね。恥を知れガルド!それと気安く殿下に近づくな!」
ローザが話を振ったのは第1近衛騎兵師団師団長のウィルアス中将という中年女性だ、彼女は元々ローザが率いていた青の騎士団の副団長を務めており、さらに青の騎士団が出来る前は女王直属の近衛騎士団の団長も務めていた。
そういった経歴もあってか、かなり早い段階から帝国軍の工作や部隊内部にいる内通者の調査をはじめ、通信機器をフル活用し第2近衛騎兵師団や第1、2近衛歩兵師団に対しても同じように調査するように通達するなどといった動きをしていた。
案の定、第1近衛騎兵師団や通達した3部隊の中すべてに工作員が混ざっていて、そのことが判明したのはいくつかの兵器を帝国軍に横流しする直前だった。
工作員が紛れ込んでいる事が発覚してすぐ、これまでなかった憲兵隊を部隊内に創設させ、さらに兵器を容易に動かせないように固定魔術を組み込み、万が一の事を考えて兵器の位置がすぐにわかるように位置特定魔術を組み込むといった対策を行った。
当然このことは他の部隊や海軍等に情報共有の上、軍上層部にも進言していたが、現実的ではないという事で一蹴されてしまっていた。
「このことはガルドも知っていたはずだ。何故このことを実行しようと思わなかったんだ?」
「はっ、これは私の力不足であります」
「そうだな、君の力不足もあるな、それより君の人を見る目も何とかしたほうがよくないか?」
「と言いますと」
「これまで君に情報が行かなかった事を不審に思わなかったのか?それと君の部下である第1、2機械化騎兵師団師団長の二人が剣を佩いていないことにも違和感を覚えなかったのか?」
ローザはガルドを問いただしながらガルドの“背後”に立つ二人の師団長に視線を移す。
ガルド中将はローザにつられるようにしてゆっくりと振り返った。
「き、貴様ら……ッ!」
「こちらを振り向くな!」
「この、裏切り者!」
ガルド中将が振り向いた瞬間。
第2機械化騎兵師団師団長は懐に隠し持っていた折り畳みストック付のG18Cを取り出しガルド中将に向け、同時に第1機械化騎兵師団師団長の方は持っていたバックに隠し持っていたMP7を取り出しローザに向けていた。
それに呼応するように彼らの部下も剣を構えていた。




