420.アレクシドロ市街地戦4
「被害状況を知らせろ!」
あれほど入念な砲撃をしたあとにも関わらず、防御陣地に進撃した各大隊に被害が出ていた。
その報告を聞いたウェルフェン大佐は驚きを隠せないでいた。
「報告!戦死15、負傷者228、負傷者の内100名ほどは目と喉の痛みを訴える程度の軽傷!」
「何が起きた?」
「はっ、情報によると、目やのどに刺激を与えるガスのようなものがまかれ、動けなくなったところに矢や銃弾によって死傷した模様」
「まかれたガスの成分はわかったのか?」
「現場指揮官によれば、匂いから恐らく唐辛子のような香辛料と玉ねぎが混ざったものを粉末状にしたものを撒いたのではないかと推定されています」
どうやら帝国兵は海兵隊の進撃を止めようとして、殺傷能力はないが目と喉に痛みを与える程度のガスを撒いたようだ。
結果、海兵隊員は歩みを止めてしまい、さらに抵抗できず帝国兵に狙い撃ちにされてしまったのだ。
一時的に混乱に陥ったが、幸いにも毒ガス訓練を行っていた為、その訓練通りに隊員はガスマスク着用をしたことによって混乱は終息した。
「侮れんな……」
「ええ、これからも何をしてくるかわかりません。この様子だとこの後さらに激しい抵抗に遭うかもしれません」
参謀や副官たちは冷静にこのことを分析している事から、まるでこの攻撃が予想されていたかのようだ。
「この後も同じ攻撃をしてくる可能性が考えられるな、こうなれば空爆を要請するときにそれごと燃やせるようにナパーム弾の使用も検討したほうがいいな……。もちろん城に対してのみだが」
「大佐のおっしゃる通りです。ナパーム弾を用いればもしこれ以外の毒ガスを保有していても無力化できるでしょう」
「そうだな、これ以外にもトラップが仕掛けられているかもしれん。前線にはより一層注意深く進むように伝達してくれ。それと増援にやって来た第51連隊にもだ」
「はっ!」
第二防衛線を突破した頃、第5海兵連隊各大隊の後方では引き続き生存者の捜索を行っていた。
その捜索には第5海兵旅団第51連隊が投入されていた。
彼らは生存者捜索に加え、さらに第一防衛線が突破されたあとも後方には帝国兵や武装した住民が民家に立てこもっているようだという情報もあった為、それらの討伐という任務も付与されている。
第51海兵連隊は分隊単位に分かれしらみつぶしに建物を捜索していた。
そんな中とある分隊は高級そうな宿屋を見つけ、捜索の為侵入を試みようとしていた。
入口にある扉は大きく分厚い金属で出来ておりかなり頑丈そうだ。
隊員の一人は、一先ず扉についている南京錠のような形をした鍵をこじ開ける為、ピッキングツールを使う。
「駄目です!開きません」
「なぜだ?」
「ロックは解除出来たのですが、その瞬間に淡い光が灯ってまたロックされます!」
どうやら鍵に不正に開けられた時用の対策が施されていたようで、ピッキングは失敗してしまう。
「この大きさだとバッテリング・ラムでは開かないな、マスターキーで開けられそうか?」
「やってみます」
分隊長の指示で、鍵に向けてべネリM4というショットガンを撃ちこむ。
これで物理的に破壊して開けようという作戦だ。
バンッ!ガキンッ!
しかし、傷つきはしたがこちらもかなり頑丈のようで壊れそうにない。
「仕方がない、扉の向こう側に住民はいないか?それとトラップもないか確認してくれ」
「はっ」
扉の下の僅かな隙間にファイバースコープを入れ中の様子を伺う。
中の様子が隊員の持つ端末に映し出されていたが、その画面には誰も写っていない。
罠も仕掛けられていないようだ。
「少なくとも扉の周辺には人影と罠は見られません!」
「良し、爆薬をセットしろ」
通常の方法では開かないと判断した分隊長は扉のすぐそこに住民がいないことを確認すると扉を爆破して破壊した後に進入するように命じた。
「設置完了!」
「良し、離れろ」
設置が終ると、分隊員たちは盾を持った隊員の後ろに一列になって身を隠す。
隊員たちは前の隊員の肩を叩き、後ろに付いた事を伝える。
全員が安全な位置についたことが確認されると、一番後ろにいる爆破用のスイッチを持った兵が大声で爆破前のカウントダウンを始める。
「3!2!1!エクスキューズ!」
バシュ!ドンッ!
鍵がある場所と蝶番の部分が爆発し、その衝撃で鉄製の扉は大きな音を立てながら宿内に倒れる。
「グレネード!」
扉が開いたと同時にスタングレネードを投げ込み、爆発音がなった瞬間分隊員たちは一斉に突入していく。
入ってすぐにあるエントランスホールには先ほど確認した通り誰もおらず、隊員たちは2人1組になって別々に宿の客室の確認を行っていく。
3階分全て確認し終えた隊員たちは再度1階に戻り分隊長と合流し報告を入れる。
「報告!」
「2階クリア!」
「3階クリア!」
「4階もクリア!」
「良し、次食堂に行くぞ!」
客室の確認が終ると、最後に一番奥にある食堂の確認に向かった。




