417.アレクシドロ市街地
第5海兵連隊連隊長のウェルフェン海兵大佐はロンダルキア中将からもらった指示をもとに、市街地侵攻作戦を開始しようとしていた。
ウェルフェン大佐専用のテントの中では中佐とブリーフィングが行われていた。
「中佐、あれを兵達に行きわたらせたか?」
「はっ、滞りなく」
ウェルフェン大佐が連隊参謀の中佐に言う“あれ”というのはバリスティック・シールドのことで、元々市街地戦となる事を考慮して、最初から本国から持ってきていた。
隊員たちに行きわたったこの盾は、帝国軍が放つ矢や最近配備され始めた銃もどきの攻撃を防ぐ事も可能で、近接戦闘も予想されるので剣や槍といったものや鈍器からの攻撃にも耐える事が出来るようになっている。
それ以外にも、元冒険者が多い海兵隊員たちは過去に装備していた剣や斧を持参していた。
「よくやった。では手筈通り第一大隊から出撃させよう。城下町に向かわせた偵察部隊は帰ってきているか?」
「はっ、偵察に向かっていた部隊は既に帰還しましたが、昨夜の影響で敵は相当警戒しているらしく、城下町の中心部までは進むことが難しいとの事で、引き返らせています」
「つかめている敵の位置は?」
ウェルフェン大佐の問いに中佐は、机の上に広げられた地図に木で出来た赤い駒を置いていく。
「はい、現在は城門周辺には敵はおらず、基本的にはここと、ここ。それとここに配置されている事がわかっています」
地図上に置かれた駒はかなり密集しており、なるべく中心にある城に王国軍を侵入させないようにしようとしていることが見て取れる。
それに加え城下町の道は迷路のように張り巡らされていることも、この城下町を進んでいくのが如何に難しい事がわかる。
「かなり、分厚い布陣だな。敵のおおよその数はわかっているのか?」
「はい、残念ながらこれは推定ですが、少なく見積もっても6000ぐらいかと思われます。さらにチーム3の情報が正しいのであれば、これにさらに住民の9割以上が敵対行為を取ってくると考えると、さらに4000ほど追加されるとみていいでしょう」
「防御陣地は何で構成されている?」
「陣地の多くは土嚢と木の柵といったもので構築されています。中には鉄条網に似たものも確認されていると聞いています」
「ぅうん、かなり用意周到だな、これまで王国軍に対して町を防衛してきた帝国軍とは思えないな……。ここを攻略するには相当難航しそうだな」
ウェルフェン大佐はこれまで他の海兵隊や陸軍が攻略してきた作戦概要等を見てきていたが、ここまで強固な防御陣地を構築していた場所はなかったので、つい、うなっていた。
「おっしゃる通りです。そのためには初動の段階で城下町の東、西、北の各入口近くを制圧したのち、敵の第二・三防衛線に到達したその時点で後方に待機している重迫撃砲中隊による敵陣地への攻撃をしていき、全敵陣地を破壊したのを確認したうえでやっとアレクシドロ城の攻撃準備が整うといったところでしょうか」
「そのあとに、ようやく艦隊からの支援を受けられるという事か……」
全体的な作戦概要としては、第一段階として第一大隊は城の北側から、第二大隊は東側、第三大隊は西側から攻めることになり、最終的には城の外堀まで橋頭保を築き。第二段階は一旦後退したのちに城に向けて艦砲射撃と空爆を要請し、相手が弱り切ったところに最後の攻勢という流れになっている。
「はい、それまでにこの兵員でアレクシドロ城を攻略しなければなりません。ただ……」
「ただ?」
「いえなんでもございません」
ウェルフェン大佐は何か奥歯に物が挟まったような中佐の様子が気になり、続きを促す。
「中佐言ってみてくれ、君の本心が聞きたい」
「では、これは個人的に思う事ではありますが、ここまで帝国各地の攻略を推し進める意図がよくわかりません」
「というのは?」
「というのも、今の王国軍であればわざわざ各地を占領せず、いきなり帝都に乗り込んでいき女帝を倒してしまえばここまですることがないように思えるんです。もちろん帝国のこれまで行ってきた非道は許せません、だからといって帝国憎しといって各町を次々と占領しながら帝国兵士たちを倒していくのは違うと思うんです。これでは帝国がやって来た事と何ら変わらないのですから」
「確かに、そうだな、君の言う事にも一理ある……」
中佐はこの攻略だけではなく、この王国の反攻戦略自体に疑問があるようだ。
ウェルフェン大佐は彼の言い分に一定の理解を示すように、頷き返す。
中佐が言う通り帝都ディシアに王国軍の戦力を投入できるだけ一気に投入し、短期間のうちに帝都占領と女帝の処刑を行ってしまえば、帝国国民や軍人の戦意を大きく低下することが出来る。そして運が良ければ全面降伏に応じるかもしれない。
しかし、中佐が言うほどこの戦争は簡単じゃない。
「失礼します!連隊長!第一、二、三の各大隊が出撃準備整ったようです」
さらに続けて中佐は話そうとしていたが、丁度各大隊の準備が整ったようで、それを知らせる為に伝令兵がテントの中に勢いよく入って来た。
ウェルフェン大佐は伝令兵に手を振って返事をする。
「中佐の言っている事は俺もよく理解できる、だがな、中佐。俺たち下の人間は命令された通りのことをやるしかないんだ」
「はっ!失礼いたしました」
「いや、いいんだ。指揮所に行くぞ」




