415.人形
「軍団長」
「はい、なんでしょう領主様?」
「ちょっと、いいか」
会議が終わってすぐハフマンは軍団長に声を掛けた。
そのまま二人はハフマンの執務室へとはいる。
「先ほどの件でしょうか?」
軍団長は先ほど中央からきたアリーセの胸倉をつかんだ件について問いただされるかと思い、少し申し訳なさそうにしている。
「そうとも言えるが、つかみかかった事を責めたいわけじゃない。むしろよくやってくれた、私も君と同じ気持ちだったからね……。君もわかっているんだろう?」
ハフマンも軍団長同様、会議室での彼女の上から見下げたような態度や言動に内心怒りを覚えていた。
恐らく彼女は女帝陛下から直々に命令を受けているという立場がある為、大きな態度をとっているのだろう。
「はい、あの“秘策”というのは妙に引っ掛かりを覚えます」
「私もそうだ」
二人は彼女が明らかに何かを企んでいるようにしか思っていなかったのだ。
「万一その“秘策”とやらが功を奏したとて、我々に勝ち目はないことは明白だ。私は城下にいる住民の身の安全も考えて無血開城を王国軍に提案しようと考えている。そこで貴殿の意見を聞きたい」
「はっ、私も領主様のおっしゃる通り無血開城すべきだと考えます」
軍団長もハフマンと同様、王国軍とやりあってまともに勝てるとは端から思っておらず、無血開城という事に同意した。
一部例外はあるが、それ以外のほぼすべての各都市がほとんど成す術もなく次々と落とされているという情報を彼は聞いているので、そう思っても不思議ではないだろう。
「そのうえで、残った我らで城の北側にある山間部に王国軍を誘い込み、帝国国内へと侵攻しにくいように時間稼ぎをした方がよいと愚考いたします」
住民を王国軍に引き渡しはするが、軍団長は帝国に属する軍人としてアレクシドロ以外に住む一般市民たちの事を想い、ほんの少しでも時間稼ぎをしようという思いからこの案を伝えていた。
「何故、それを先ほど言わなかったのだ?」
「先ほどは“彼女”がいたので」
「そうか、そうだったな……。わかった、ではその方向で進めよう。なるべくこのことは“彼女”に内密にな」
「はっ、ただ、王国軍との交渉に関しては外務部長にやって頂いた方がよろしいかと」
「それは私に任せてくれ、作戦立案は頼んだぞ」
「はっ!お任せください」
話が終ると軍団長は、作戦立案をするため自室へと戻っていった。
コンコンッ
「誰だ?」
「アリーセであります」
「すまないが、用があるなら、そこにいる衛兵に言ってくれないか。私は今忙しいのだ」
「衛兵には伝えられない機密事項なので、直接お話できませんか?」
ハフマンは少し怪しいと感じ、少し逡巡したが、彼が言う機密事項というのは会議で言っていた“秘策”のことだろうと思いカギを開けた。
「……、わかった、今鍵を開ける」
「ありがとうございます」
ハフマンがカギを開け、扉を開けると、廊下には両脇に立っていたはずの衛兵が倒れていた。
扉を開けハフマンが倒れている衛兵に気をとられているうちに、アリーセは剣を彼の首元に突き付ける。
「貴様!何をしているのかわかっているのか!」
「静かにしろ!中に入れ」
「くっ!」
首に剣を突き付けられ、抵抗することが出来ないと悟ったハフマンはアリーセの言う通り大人しく部屋の中へと戻る。
「何が、目的だ!」
「フフッ、それは僕の口からは言えませんねぇ。これは女帝陛下直々の命令なので」
その言葉にハフマンは驚愕を隠せずにいた。
「なん、だと」
「これ以上話しても無駄ですね……、ウェイズ!」
そのままアリーセは彼に何の説明もすることないまま、魔法をかけた。
「これで、あなたは僕の思い通り。さぁ、踊ってくださいハフマン」




