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400.ウルラ対ネイサン

 

「ほっ、ほう、おぬし中々腕がたつようじゃな?」


 ウルラは突如として現れた片腕の男に剣を首に突き付けられそうになるが、間一髪防御魔法で弾く。

 攻撃をはじかれた男は少し驚いたような顔を見せる。


「おっと、爺さんもなかなかじゃないか?あんな魔法を使ってくるなんて驚いたよ」

「ほほっ!そうじゃろう!そうじゃろう!」


 何故かウルラは自身の使った魔法を褒めてくれたと勘違いしたのか、こんな状況にも関わらずかなり喜んでいる。

 男は襲われているはずのウルラにふざけた態度をとられ、声を荒らげた。


「おい、爺さん勘違いするなよ?俺は爺さんを殺しに来たんだぞ?」

「ほほっ!面白い奴じゃ、やれるものならやってみぃ?」

「紺のジジィ!上から目線でものをいいやがって!」


 コケにされた男は完全に頭に血が上り、持っていた剣を振り上げ斬りかかる。


「その余裕いつまで保っていられるかなっ!」

「ほっほっほ」


 ウルラはものすごい勢いで斬りかかってくる男に対して終始余裕の表情を見せながら、防御魔法で彼の攻撃を受け止める。

 男は簡単に自分の攻撃が防がれていく様子に苛立ちが募り、剣に魔法を付与しウルラをさらに激しく斬りかかる。


「ほっほっほ、おぬしその程度か?これでは準備運動にもならんわい」

「ふん!まだまだこれからだ!クワッドスラッシュ!」

「ファイアウォール」


 男が放った風属性の魔法は、ウルラの火属性防御魔法でいとも簡単に防がれてしまう。


「ちぃ!」

「ほっほっほ、何をやっても無駄じゃよ、ところでおぬし、名を何と言う?」

「俺はネイサンだ!……ラピッドファイア!」


 ネイサンと名乗った男は、ウルラの一瞬の隙を見逃さず、後ろに飛ぶと同時にウルラに向けて火の玉を連続して放つ。

 しかし、ウルラは飛んできた魔法を軽く防御魔法で防いだかと思うと、お返しとばかりに倍以上の火の玉を放った。

 その攻撃にたまらずネイサンは防御魔法を展開し後ずさる。


「クソッ!しぶとい奴め!」

「ネイサン大佐!加勢します!」

「フレイムストーム!」

「プロミネンスフレイア!」


 ネイサンの不利な状況を悟った周囲にいた帝国魔法兵達20名は魔物30体と共に加勢してきた。

 加勢してきた帝国魔法兵達と魔物たちは一斉にウルラに向かって様々な魔法を放つ。

 放たれた魔法は何とかウルラの防御魔法によって防がれるが、ここまでかなり魔力を消耗してきているので、防ぎきれない魔法も出始めて来ていた。


「これは流石に厄介じゃのう……」


 これまでネイサンに対して優位に戦いを進めて来たウルラであったが、流石に1対50という不利な状況に追い込まれ、さらに魔力量減少も手伝って徐々に押され始めていた。


 (こうなったら、一か八かじゃ!)


「アースブラスト!」

「させるか!」


 この状況に焦ったウルラは一発逆転を狙って、再度戦術魔法を放とうと試みたが、その瞬間をネイサンは見逃さず一気に間合いを詰め近接戦闘に移った。


「くっ!」

「オラオラ!さっきまでの余裕はどうした?」

「ほっほっほ、これはちとまずいのぉ……」


 ネイサンが肉薄して来た為、得意の魔法を使うにはさらに不利な状況に追い込まれてしまった。

 対して剣での戦いになれているネイサンにとっては独壇場で、完全にウルラを圧倒する。

 当然ウルラは魔法専門なので近接戦闘が不得意だ、しかし、ここで死ぬまいと何とか護身用に持っていたナイフと防御魔法を併用して耐えていた。


 ウルラはネイサンの素早い剣さばきから身を守ろうと必死に抵抗する。

 しかし、一瞬の隙をつかれウルラの首もとにネイサンの振るった剣が飛んできていた。


(もはやこれまでじゃな……)

 ウルラはネイサンの剣を防ぐことも避けることが出来ないと悟り、そっと目をつぶり、すぐに訪れるであろう死を待った。

 ガキンッ!


 (痛みはない、わしはもう死んだのか?ん?今の音はなんじゃ?)

 そう思いながら、ウルラはゆっくりと目を開ける。


 目を開けた先には近衛第四師団長のベルがネイサンの首元に切っ先を突き付けている状況があった。

 ネイサンが持っていた剣はベルによって弾き飛ばされたのか、彼の後ろの地面に突き刺さっていた。

 剣を突き付けられたネイサンは、勝てないと悟ったのか片腕を上げ手をひらひらと振り降参の意思を示している。


「お待たせしました、ウルラ殿!助けに参りました!」

「おおっ!君がベルか!かたじけない」


 周囲には何とか押し返すことに成功した王国魔法兵達と増援にやって来た近衛第四師団の面々がいた。

 ネイサンを援護してくれていた部下や魔物たちは既に死亡し、骸をさらしていた。


 先ほどまで戦車隊を苦しめていた巨大モンスターは他の王国魔法兵によって倒され、戦闘は終結していた。

 時を同じくして北側の旧中央諸国連合の兵達を襲っていた大量のモンスターと帝国魔法兵は、旧中央諸国連合の騎兵隊や竜騎兵隊、魔法兵の連携によって壊滅させたそうだ。




「チッ!運のいい爺さんだな!」

「ほっほっほ、ネイサンよ、後少しのところで儂の首をとれたじゃろうに残念だったな!」

「ふっ!爺さんまたどこかで戦えるといいな……、さらば!」

「なっ!」


 ネイサンはウルラに再戦を誓うと、ベルが視線を外した一瞬の隙を狙い、転移魔法を使ってどこかに逃げて行ってしまった。


「やられた!転移魔法か!ベルよ奴を逃してしまったのう」

「ええ、奴は前回も同じように転移魔法で逃げていきました……、今度こそ殺すつもりでしたが、不覚をとりました」

「大丈夫じゃ、あやつはまた現れる、その時こそ首をとってやれば良いのじゃ」


 こうして、突如として現れた大量のモンスターと帝国魔法兵達を王国軍は多少の犠牲を出しながら、壊滅させる事に成功した。



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