399.魔法戦!
指揮所から出ていったウルラは足早に魔法化歩兵師団の陣地へと向かった。
「ほっほっほ、みんな元気だったかい?」
「「「「ウルラ師匠お待ちしておりました」」」」
ウルラが陣地に着くと、かつて自分が教えて来た生徒や弟子が出迎えてくれた。
もちろんこの師団の長もウルラに魔法を習っていた人の内の一人だ。
ここにいる魔法を扱える兵や士官たちは皆、魔法を扱うための大小さまざまな杖を持ち、王国魔法使いの伝統的な紺色のローブを纏っている。
そして、この魔法化歩兵師団は実はウルラの発案で、編成する際の人事権を握っていたのも彼だった。
発案した理由として、まず帝国軍は最近ではイスフェシア皇国に魔法兵を多く割いている為、王国軍に対しては魔法兵を送り込むことは少なかったが、昨今王国軍が本格的な侵攻を始めた事を受けて帝国軍側が少しでも勝つ為に王国が苦手とする魔法に特化した部隊を送り込んでくるだろうということだ。
さらに、その部隊に対してほぼすべての装備や兵器が召喚されたもので構成される王国軍では、いつか対応できなくなるという懸念が以前から指摘されてきていたのだ。
「さて、ようやく君らの出番じゃ、これまでの訓練を生かして帝国の奴らに目にものを見せるのじゃ!」
「「「「はい!」」」」
本当であればウルラは久々に会った弟子たちと話をしたいところであったが、既に敵がこちらに押し寄せてきているので軽い挨拶を済ませると、魔法兵を引き連れ前線へと向かう。
「かなりの魔物がいるのぉ、やりがいがあるわい!」
前線に着いた魔法兵達やウルラは目に強化魔法をかけ夜でも周囲がはっきりと見えるようにしていた。
ヤクトブルグ城塞都市の方向に目をやると、そこにはゆっくりとだ進軍を続ける魔物たちの姿があった。
何とか戦車や自走砲の砲撃で進軍速度を落とせているが、それでも魔物たちの歩みを止めるまでには至っていない。
対してウルラは大量にいる魔物の姿を見て俄然やる気が出た様子で、腕をまくりブンブン振り回している。
「流石は師匠!頼りにしております」
「おうよ!任せるのじゃ、ではいいか?」
「はっ!皆準備は整っています」
「では行くぞ!」
するとウルラは両手を空に掲げ、魔法の詠唱を始めた。
詠唱をし始めると、彼の両手の上には大き目の赤い魔法陣を中心に水平方向に小さな魔法陣がひろがる。
彼が今詠唱している魔法は、最近自身が開発した“戦略魔法”というものだ。
これは通常ある上級魔法をさらに強力にした軍用魔法である戦術魔法をまたさらに強力にした魔法で、これを使用する際には膨大な魔力を使用する。
そのため、ウルラは詠唱しながら魔法兵の彼等に魔力を融通してもらっている。
そして今詠唱している戦略魔法は“ヴォルケリア”というものだ。
「ヴォルケリア!」
詠唱を終えたウルラは掲げていた両手を魔物のいる方向に向け、その勢いと共に広がっていた魔法陣から同時に魔法が解き放たれた。
解き放たれた魔法は魔物たちの手前まで飛んで行き、地面にぶつかった瞬間、マグマのような粘度の高いものが一斉に噴き出していた。
その噴き出したマグマのような魔法は魔物を直撃し、そのまま魔物を飲みこんでいった。
「やったか?」
魔物はその魔法にのみこまれ、消滅したかに見えた。
しかし、そこには魔法バリアを間一髪張ったのか、帝国魔法兵と一部の魔物だけは残ってしまっていた。
とはいえ、数は目に見えて減っていることから、かなり効果があったことは証明された。
「ちぃとばかし、よわかったかのぉ?まだまだ改善の余地はありそうじゃなぁ」
当の詠唱した本人はもう少し数は減らせたはずだと、少々ご不満の様子だ。
「師匠!いかがいたしましょう?」
対して、敵が消えると思っていた師団長は少し焦ったような表情をみせ、ウルラに問う。
「なぁに、これくらい、おぬしらと一緒に戦えば何とかなるじゃろう、ほらゆくぞ!」
「ちょ、待ってください!お、おい!師匠をお守りするんだ!」
そんな師団長とは反対に余裕綽々の様子のウルラは、残ってしまったのならばやってしまえと言わんばかりに帝国の魔法兵と魔物も元へ歩き始めてしまった。
そのあとを師団長と魔法兵達は慌てて追った。
流石に先ほどの大規模な魔法を使った事によって帝国側の魔法兵は王国側の魔法兵の存在にようやく気付き、魔法攻撃をし始めた。
さらに、近くにいた召喚術師は新たな魔物を召喚し、何とか抵抗を試みる。
両者ともにかなり接近すると、その後は魔法攻撃の応酬となるが、元々圧倒的に帝国側の魔法兵の一人一人の魔法量も魔法の威力が高いため、数が多いだけの王国魔法兵は徐々に押され始めていた。
「ぐぬぬ、帝国め!やりおるわい」
徐々にこちらが押され始め劣勢になり始めたころ、ウルラはこの状況を変えるべく今度は先ほどよりワンランク下の“戦術魔法”を使おうとする。
戦略魔法と違い戦術魔法あれば、ウルラであれば先ほどのように他からの魔力をもらい受けずに使う事が出来る。
しかし、そんなウルラの目の前に突如として片腕の無い男が現れた。
「おっと、爺さんそこまでだ」




