382.勇者と
顔を合わせた二人は簡単な挨拶を済ませた後、お互いの自己紹介をしあった。
レナが自己紹介をしたときに、元居た世界から”転生”してきたということを知ったオゼットとマリーは非常に驚いていた。
そのあと、オゼットと俺は元居た世界での話で大いに盛り上がった。
中でも、特にお互いが好きな日本酒の事についての話題で盛り上がり、この後日本酒を飲みながらもっと語ろうという事になった。
一方レナとマリー、メリア達はこの世界でのファッションの事や人気の料理店等を話に花を咲かせていた。
やはりどこの世の女性も、こういった内容の話で盛り上がるのだろうか。
果ては一般市民の間で最近はやっている事の話題で盛り上がりを見せている。
挨拶や自己紹介等をして、彼等の緊張がほぐれた事を見計らって、俺は本題を切り出す。
本題というのはイスフェシア皇国の奪還についてだ。
「さて、じゃあ本題に入るとしますか。一先ずどんな状況か教えてくれるかな?」
「はい、では……」
皇国の情報は既に様々なルートから仕入れているが、確認ということも含めてオゼットに聞くことにした。
俺が促すとおもむろに彼は、俺達にこれまでに起こった事の顛末を話し始めてくれた。
正直、コンダート王国にはいろいろ驚かされたがワタもデスニア帝国にもう一人元の世界から転移者がいると聞いて俺は驚きを隠せないでいた。
更にその男には時を止める事が出来る事を話すと俺とメリアは深刻な顔へと変っていった。
「“時を止める”か……何か対策はできないか?」
「戦ってみて思いましたが時を止められたら何もできないです。唯一、通用した攻撃方法と言えば、油断した瞬間に地雷魔法を発動させたり、奴を掴んで一緒に上級魔法を喰らった時ぐらいです」
要はその能力を使われればほぼ隙がなく、攻撃する手段がかなり制限されるという事だそうだ。
そんなもう一人の転移者と彼が戦った時に苦肉の策で自爆攻撃を仕掛けるしかなかったというとことか。
(時を止めるのはチート過ぎるだろ……、いや、人のこと言えないか……。しかしどうすればいいんだ?)
俺はその恐ろしい能力を聞き、しばらく考えこむ。
「……じゃあ、遠距離からの攻撃ならどうだろう。例えばスナイパーライフルで狙撃とか?」
その相手がその能力を使う前に攻撃し、防ぐ隙を与えなければ
「わかりませんが、奴は相手が攻撃した瞬間に自動的に時を止めて相手の位置を特定する『タイム・カウンター』っていう技があるらしいので暗殺は難しいと思います」
その考えはすぐに彼によって否定された。
考えれば考える程レイブンに勝つ為の攻略方法が思い浮かばない。
仮に奴の頭上に核爆弾を投下しても時を止めて『フィールド・テレポーテーション』という転移魔法で逃げられてしまえば元も子もない。
時を止めるだけでなく転移魔法まで使ってしまうとは末恐ろしいやつだ。
(いったい何なんだそいつは!その能力俺も分けてくれ!)
「厄介な奴だ。近日中に行われる作戦に支障がでなければいいんだが……」
これから防戦一方だった王国軍全軍を動かして、近日中に帝国東部に侵攻し帝国を占領する計画があるので、もしその能力を持った男が王国軍の前に立ちふさがるような事があれば、たとえ通常兵力では帝国軍を凌駕する我が軍であっても、魔法戦力や特殊能力を持った兵士がいない我々にはほぼ勝ち目がない。
彼はその男と何度も戦い敗れこそしたものの、その能力を持った男とどのように渡り合うかを心得ていてその援護をわが軍の方ですることによって勝機が見えてくるとはずだと考えた俺は、その部隊の手助けをして欲しいとのことだ。
この計画が成功すればイスフェシア皇国まで作戦区域を伸ばすことができ、皇国奪還への近道になるはずだと俺は彼に言った。
「協力してくれるか?」
「わかりました。イスフェシアの勇者の実力を篤とご覧になってください」
俺は手を差し伸べるとワタはそれに応じて握手をする。
計画の中にイスフェシア皇国国内にいる転移者の協力を得るという項目があったのでこちらとしては来てくれて助かった。
彼等にとっても、帝国に比肩しうる大国を味方につけたので大分気が楽になったことだろう。
ただ、王国として何の対価もなしに彼らの為に軍を動かす事は出来ないので、交換条件を求めた。
それはこれから行われる作戦のとある部隊に同行し、その部隊を勇者としての能力を使って手助けをすることに加え、帝国の知りうる情報をこちらに全て開示する事、さらに魔法や特殊能力についての情報も全て提供する事とした。
もちろんこのことに彼は異論を唱えず、二つ返事で承諾してくれた。
話が終わると、彼らは城の中に用意された自身の部屋へと戻っていった。
彼等が帰ってすぐに執務室には陸海空軍、海兵隊、国防総省等といった軍事に係わる省庁の大臣や重要幹部等がぞろぞろと入って来た。
これから帝国に対して大規模な反攻作戦を話しあう事ことにしていたのだ。




