380.軍縮の要望
「続きましては、軍の予算縮小案についての議論を始めたいと思います」
冒険者ギルドの件が終わると、続いて軍の予算縮小案についてだ。
この案は下院の過半数近くを占める野党が提出したもので、賛成票が1票だけ反対を上回りギリギリで可決されてしまったようだ。
内容は今ある軍事予算を今の半分まで減らし、他の公共事業や教育費用に回すべきだというものだ。
現在、戦争中なので当然なのだが軍事費とその関連費用が国家予算のうちおよそ7割以上を占めてしまっている。
その為、LiSMを使わず通常の公共事業として行おうとしている事業に回す予算の余裕がなく、滞ってしまっているようだ。
そんな事情はあるとはいえ、今は国防が最優先事項なので、こんな事が法案で通されたこと自体がおかしい。
「それはまだ早いだろう!何を寝ぼけた話をしているのだ!たった今も戦争状態は続いているのだぞ!」
「そうだ!そうだ!」
「いったい下院は何を考えているんだ!」
「むしろ、軍事費の増額が先だろ!」
議長がその話を始めた途端、多くの上院議員は怒鳴り声を上げる。
この上院議員達の反応は至極当然のことだろう。
「国防総省としてもそれは到底容認しかねる。現在も国境付近では規模は小さいとは言え帝国との戦闘状態は続いていて、さらに新兵器の建造や製造が始まります。そんなときにこの予算案が通ってしまえば、また帝国の拡大を許しかねません」
関係者として議会に来ていた男性で軍の行政トップである国防総省長官のカレンディア・マルシウスは、当然この案が今の軍にとって非常に良くないと一番良く分かっているので、その案に対して反対の意見を述べる。
普通に考えて、戦争真っ只中の今の状況に軍事費を削減するのは異常だ。
「この案は何者かからの悪い力が働いているような気がしてならない、議長!至急内務省と法務省に調査を依頼しましょう」
「私も調査依頼に賛成します!」
明らかに不自然な時期にこのような法案が下院で通った事を不審に思った一部の議員は、何か下院議員に何らかの裏取引や外部の圧力がかかっていないかの調査を議長に進言した。
この依頼が通れば、内務省は特別高等警察と王立警察庁公安部を、法務省は検察庁特殊捜査部を動かして調査を開始するだろう。
「その調査依頼は至急私宛で関係省庁に依頼しましょう。では、議論を続けてください」
議長はその議員の調査依頼をするため、手元に置いてある依頼書を書く。
書きながら議長は続きを促す。
「上院議員の皆さん!これは否決にすべきです!というよりこんな案は通らせてはなりません!」
ハミルトン議員は議事堂内に響き渡る大きさの声で訴えた。
さらにハミルトン議員はこう続ける。
「むしろ、今後陛下の能力に頼らなくても良いように、国家を上げての兵器開発や生産等をしなければならず、早急にそれらを安定して行えるようにしなければなりません。そのためには減額等という愚かな議論をしている暇などありません。むしろ増額をすべきです!」
「ハミルトン議員に賛同いたします!ハミルトン議員のおっしゃる通り今は軍事費の増額をしなければなりません。しかし、それには大きな障害が残っております、それは現在の我が国の財政状況に余裕が残されていないという事です」
ネガリア議員が言う通り、俺とメリアが持つLiSMの使用停止期限が迫ってきており、それが使えなくなる前に今ある兵器を全て国内生産への完全切り替えと最新兵器の開発に力を注ぐ必要性があり、その為に使う予算を増額しなければならない。
しかし、昨今の軍事費の増大と公共事業や教育環境の拡充等によって財政状況はひっ迫している現在、単純に増額するのは無理がある。
「それには腹案がございます」
暫くの沈黙の後、とある上院議員から提案が出てきた。
その上院議員は、上院議員を務める傍ら商会ギルト長とボヌム商会長も務めるエリザベータ・クレアだ。
エリザベータ議員、その案というのは?
「出雲国とエンペリア王国との貿易を活発化させ、その貿易で得た利益を今回の軍事費に充てるというものです。その貿易のメインとなるのは、最近国内で採掘量が増えて来た各種鉱物や現代兵器を使う上で必須な石油といった化石燃料といったものや、そしてさらに兵器の輸出といったところでしょう。これらのもの輸出することによって外貨を稼ぐこともできれば、兵器に至っては量産することによって生産コストを低くすることが出来るといった様々なメリットがあります」
商会ギルドを束ねる人物だけあって、素晴らしい案を出してくれていた。
出雲国への輸出に関しては既に食糧を輸出入することをお互いに合意して、航路も開拓されているので、すんなり進むだろう。
エンペリア王国とは以前からの関係があるので、多少増やしても大きな摩擦は起きないだろう。
「さらに、輸出したものをその国が加工することが出来なければ意味がありませんので、それらを加工することのできる技術やそれらに関するといった技術の有償提供を行うというのは如何でしょうか?それ以外に鉄道や道路、ライフライン関係といったものの建築や管理技術の指導や提供といった事、それに使う車両等の輸出といった事等々、輸出して我が国のみならずその国も利益を得られるものになるでしょう」
「なるほど、それは妙案だ!こんな案を議論するよりその議論をした方が良い!どうでしょう皆さん、ここは一旦投票し、この案を廃案したのち、この案を予算案化といたしませんか?」
ハミルトン議員はエリザベータ議員のその素晴らしい案をほめたたえる。
そして、彼は上院議員に対して下院で可決されたこの案の廃案を訴えた。
ハミルトン議員の訴えに、上院議員のほとんどが同意を示すような反応を見せていた。
「では、多数決を取りたいと思います」
その様子を見た議長は上院議員たちに投票を促した。
結果は当然賛成票が9割に達し、この案は廃案となった。
その後、エリザベータ議員が提案したものは、俺が勅令として、すぐに実行させた。
こうして、今日の上院議会での議論は終わりを告げた。
内政編2完
今回で内政2編終了です!
次回からは王国の逆襲編が始まります!




