378.風前の灯火
「次に下院で可決された予算案と法案について議論していきたいと思います」
俺の宣言が終わると、すぐに議論が始まった。
次に、下院で採決され送付されてきた冒険者ギルド再興に関する案と、軍事予算縮小に関する法案についての議論が始まる。
上院ではこのように下院で可決された法案を再審議する役割をもち、下院から送付されてきた法案に不備や異常がないかを洗い出し、以下のような3パターンの流れになる。
①修正議決された場合は、一旦下院議会に回付され下院での再審議がなされ、下院議会にて3分の2以上で可決されれば、上院を通過せず直接国王へと奏上され公布。
②修正した状態で法案として成立すると上院議会にて判断された場合はそのまま成立となり、国王である俺に奏上され、俺が最後の判断を下し公布。
③国状に適さないものや、国益に悪影響をもたらす可能性があるもの等は上院で否決され、下院議会に行くことなく法案は破棄される。
閑話休題
まず初めに冒険者ギルドの再興する為の関連法案と予算案についてだ。
これは、軍と法執行機関の成長や銃器等の登場によって活躍の場が急激になくなってしまってきてしまっている冒険者ギルドを軍や法執行機関と冒険者ギルドとの間に境目をはっきりと明文化し、冒険者ギルドの生業としてきた事を保護すること。さらに今後冒険者ギルドからの軍や法執行機関への転向を禁止。さらに稼ぎ手が急激に減ってしまい、既に経営が非常に困難な状況に陥ってしまっている、冒険者ギルドに国庫から復興支援金として拠出しようというものだ。
「では、冒険者ギルド管理協会のベレスティア・レジン会長に今回の経緯について話していただきましょう。ベレスティア会長どうぞ」
議長に呼ばれて出て来たのは、杖をつき胸ぐらいまで伸ばした白い髭と背中まで伸ばした白髪が特徴の老人で、彼は冒険者ギルドの全体の財政や登録者の管理等を行う協会の会長だそうだ。
そんな彼が、先ほどまでハミルトン議員がいた場所までゆっくりと向かい、着くなりカンペのようなものを開いたかと思うとおもむろに口を開いた。
「この度は、発言の機会を与えてくださり誠にありがとうございます。それではさっそく……、まず、我々が管理する冒険者ギルドはこれまで国内のモンスターの討伐やダンジョンの鉱石や宝物等を取ってくる事、さらに戦争時は王国軍に兵力として参加するという事をしてきました」
彼が言うように、当たり前のことだが冒険者ギルドは冒険者らしく彼等が稼ぐためや修行のためにする、モンスター討伐やトレジャーハンターといった彼らのメインである事や、それ以外に国に対しては軍への戦力供給のみならず、限定的ではあるものの一部地域の治安維持といった形で貢献してきていた。
「しかし、それが今。モンスター討伐に至っては余力の出来た軍のみならず、国家憲兵隊や鉄道警備隊等といった政府機関に属する部隊がモンスター討伐をしており、ダンジョンの探索については希少な鉱物を国民が簡単にとる事を許すのは後々問題になるという事で軍が管理している等々、需要が完全になくなったとは言えないが、これではまるで我々冒険者ギルドをつぶしにかかっているのではないのでしょうか?」
昨今の各軍と法執行機関の急成長・拡張によって、これまで冒険者が担って来たが、それらを住民の保護や治安維持といった理由で軍や法執行機関が行ってしまっている為、急速に冒険者ギルドが追いやられてしまってきている状況だ。
さらに、それに拍車を掛けるように、その冒険者ギルドから軍や法執行機関に転向する者が後を絶たず、その数は減る一方だ。
さらにベレスティア会長はこう続ける。
「おまけにギルドマスターであるはずのアーノルディア姉妹は二人ともギルドの活動をしないばかりか、クランを半ば放棄した上に軍に肩入れする始末。それを見た他のクランマスター達も次々にクランを解散し、軍に転向するものが増えていく一方。これではここまで続けて来た冒険者ギルドは潰えるのも時間の問題でしょう……。そこで、今回その問題を解決すべく、数名の下院議員にこの法案と予算を立案して頂いた次第です」
「ベレスティア会長ありがとうございます。それでは、もう一方参考人を呼んでおります。アーノルディア・エレザ参考人どうぞ」
ベレスティア会長が述べ終えると、次に呼ばれて出て来たのは何とエレザだった。
呼ばれたエレザはベレスティア会長の反対に立った。
今日のエレザは最近好んできているプレートキャリアではなく、最初に俺があった時に来ていた防具の上から赤いマントを羽織っている。
どうやら、今エレザが着ているのがギルドマスターとしての正装らしい。
「じゃあ簡単に言うけど、武器や生活が激変した以上、冒険者ギルドはもはや必要価値がなくなっているのは明白、なので解散するか、別の全く違った形で存続をはかるほかないと考えているんだがどうだ会長?」
開口一番エレザは元居た冒険者ギルドの解散を提言していた。
しかも、目上であるはずの会長に対して、いつも通りの口調で話していた。
(相変わらず、誰であっても同じ調子でしゃべるんだなぁ)
俺は心の中で苦笑しながらも、二人を見守る。




