376.王反対派2
「話を戻しましょう。陛下は大事な執務をせず、ほとんど王城にいることなく前線へと出ては毎度危険にさらされる始末。さらには各軍の大臣も前線へと連れていくという危機管理の無さ。その行為が危険だと女王陛下から苦言を呈されているにも関わらず、それでも前線へと出ていく。こんな陛下にこの国の王が務まりますでしょうか?」
「これまで陛下が不在の時も何とかなっていたではないか!」
「何のための、首相だ!」
「静粛に!発言があるものは挙手を!アルザ議員続けて下さい」
「首相がいれば何とかなるというような、発言が聞こえてしまったので、申し上げますが、それならなおさら、国王陛下並びに女王陛下は要らないのではないでしょうか?ここまでして頂いたことには感謝申し上げますが、今後は民意で選ばれた首相と下院議院加えて我々のみでこの国を動かしていけるのではないのでしょうか?以上です」
アルザ議員が発言を終えると、また一人手を上げた人物がいた。
「ハミルトン議員、どうぞ」
ハミルトン議員というのは、帝国にとらわれていたエレシアの父で陸軍大将でもある、ハミルトン・トルドーのことだ。
現職の軍人が議員というのは、元居た世界であればあり得ない話だが、この国では貴族であればどんな職業であっても参加しなければならないという法律が存在する為、彼はそれに則り参加している。
発言を許された彼は席から、先ほどアルザ議員が演説していた、反対側に向かう。
「確かに、アルザ議員の言う通り、陛下はこれまで、数々の危険な前線へと陛下自ら赴いておられた。しかし、それは先代国王陛下も同じように前線へと赴かれ、危険を覚悟で指揮を執っておられた。結果命を落とされたのは大変残念で悲しむべき事である。しかし、これが我が国の民を率いる真の王たる姿なのではないか?それを補佐するのが、我々王立議会や首相なのではなかろうか?もちろん今後は前線へと出向かなくても良いようにすべきだとは思うが。だからといって不必要というのは言い過ぎではなかろうか?信用できないというのも言い過ぎではないか?それなら、既にこの国は滅びているに違いない」
「それでも、この国には王は要らない!」
どうしても俺の事や王族が気に入らないのか、アルザ議員はそう叫ぶ。
そんなアルザ議員の言葉に反応したハミルトン議員はゆっくりと彼の方向を向く。
「それならば、アルザ議員。国王陛下並びに女王陛下がこの国にとって不必要だというならば、国王陛下及び女王陛下への不信任決議をこの上院で出してはいかがかな?」
ハミルトン議員が言う国王及び女王への不信任決議というのは、国王や女王が執務をせず堕落した生活を送り続け、国全体への悪影響を与えると認められた時に上院でのみ発議できるというものだ。
これが発議された場合、上院でのその可否を問う投票が行われ、その投票で5分の4以上の賛成があった場合、次に下院での投票に移り、下院での投票で8割以上の賛成が得られると、国王と女王を退位させられるというものである。
しかし、先ほど多くの上院議員が国王を歓迎し、承認していたので、たとえそれが発議出来たとしても、火を見るよりも明らかだ。
「これで、私の発言は終わります」
「アルザ議員、よろしいかな?」
「……はい、議長」
アルザ議員はハミルトン議員に痛いところを突かれたのか、何も反論もできないと悟った彼は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
こうして、最後はあっけなく議論に終止符を打たれたのであった。




