364.迎賓館へ
皆に見送られながら首相執務室を出た俺は、彼の使者が待つという迎賓館へと向かうことにした。
廊下に出るとメリアとローザ、エレオノーラが待っていた。
「ワタ、お疲れ様、これから使者のいるところに行くんでしょ?私も行くわ」
「ああ、ありがとう」
メリアは俺にねぎらいの言葉をかけ、そのまま正面から抱きついてきた。
その瞬間、メリアからは柑橘系のような少し甘酸っぱいような香りがふわりと香って来た。
「メリア、香水をつけて来たの?」
「気付いてくれた?これ、少し前にエミリアが買ってきてくれたらしいの!さっき後宮に戻った時につけて来たのよ!」
俺に香水をつけて来たことを気付いてもらったのが嬉しかったのか、いつもより少し早口気味だ。
メリアが今付けているような柑橘系の香水は元居た世界で過去に姉が好きで良くつけていたので、何か懐かしい気持ちになっていた。
恐らく、過去の俺の事を例の鏡で見ていた時に姉の付けていた香水を参考にしたのだろう。
「いい香りだね。好きだよその香り」
「ウフフ!ありがと!」
俺に褒められて上機嫌なメリアは、もし獣人であったならば尻尾をブンブンと振り回しているだろう。
それほど嬉しかったのだろう。
「ちょっと~、私の事も忘れないでッ!」
「ちょっ!ローザ?」
部屋から出てくるなりずっとメリアとくっついて話していたことに、少し嫉妬した様子のローザは俺の背中に飛びかかって来た。
彼女からもメリアと同じ香水の香りが漂う。
俺の好きそうな香りだと知って、メリアにつけてもらったのだろう。
「ごめん、ごめん。ローザも同じ香水つけて来てくれたんだね」
「フフッ、そうよ!ワタが好きそうな香りだってメリアが言ってたから、私もつけて来たの!」
俺は彼女が香水をつけてくれた事を褒めてあげると、ローザは嬉しそうにしている。
「そっか、ありがとう。ローザも一緒に来てくれるのか?」
「そうよ、私も行くわ!あいつとは顔なじみなのよね!」
「あいつ……?ローザは会ったことあるのか?」
「うん、一度だけだけどね」
聞けばローザは幼いころ、エンペリア王国を訪問中のイミテシアの王女とあっていたらしい。
会った時の第一印象はクールで大人しく物静かといった印象だったようだ。
その時に王女と遊ぶ機会もあったそうなのだが、イミテシアの王女は運動が大の苦手だったようで、ローザは木の剣でチャンバラごっこのような事をしようとしてできず、結局お花摘みや紅茶を飲みながら話をするだけでローザはつまらなかったそうだ。
しかし、イミテシアの王女は満足して帰っていったらしい。
「教えてくれて、ありがとう。あとで会うのが楽しみだな」
「ううん。まぁ、ね」
ローザのその反応からあまり会いたくなさそうだった、やはり戦う事や体を動かす事が好きな彼女にとっては会わなかったのだろう。
「とりあえず、待っているようだから、迎賓館に行こうか」
「ええ、そうね。ローザの話を聞いてどんな人が気になって来たわ」
「大した事ないわよ?」
「まぁ、まぁそういわずに。エレオノーラもついてくるんだろう?」
俺はこれまで何も言わず、じっと待ち続けてくれていたエレオノーラに声を掛ける。
「はい!もちろんです、ご主人様。旧中央諸国連合とは言えど今は帝国の一部。もしかしたらこちらを殺しにかかってくるやもしれませんので、不肖のこの私が護衛役を務めさせていただきます」
そういうエレオノーラの右腰のホルスターには俺が上げたVP9が収められ、手にはシングルポイントスリングを取り付けたMP7があった。左腰には以前もつけていた愛用の剣を下げていた。
どうやら、銃は剣と違って閉所や極近距離での有効性に気付いてくれたようだ。
さらに、今まで防具といった防具を付けていなかったが、今はプレートキャリアを着用していた。
「ありがとう、エレオノーラ。一応ローザもいるから大丈夫だと思うよ?」
「あら、私の事忘れてない?」
「いやメリアは当然強いからさ、言うまでもないと思って」
俺は単純にメリアのことを信頼していたので、言わなかったのだが、彼女にとってはそれが気になったようだった。
「ならいいけどっ!」
「あら、嫉妬してるのメリアさん?」
自分は名前を出してもらって、さらにご機嫌になったローザは、そんなメリアを軽くいじる。
「うるさいわよ!ほら、そんなことより待たせているんだから行きましょう!」
「あ、やっぱりメリア嫉妬してるんだ~」
「ローザ?」
「はい、はい」
そんな他愛もないやり取りをしながら、俺達は迎賓館へと向かった。
迎賓館の目の前までくると、そこは王宮警備隊だけでなく近衛軍団の兵士達も警備しており、かなり厳重な警備を敷かれていた。
その中にはセレナとベル、そして最近新設された近衛軍団後方支援師団の師団長イリアス・フィール中将の面々もいた。
新しく配属されたフィール中将はこれまで陸軍兵学校の校長をしていたそうなのだが、今回の近衛軍団の再編に伴って呼ばれたらしい。
そんな彼女達がいるという事だけでも今回の使者がどれだけ重要視されているのかがわかる。
帝国国内から来た人物というのも少しはあるだろうが。
厳重な警備のど真ん中を通り俺たちは迎賓館の中へ入った。
中に入り、とある部屋に向かうとそこにはシエスタ王女が待っていた。




