353.姉妹と姉弟
空港内のラウンジはまるで高級レストランのような雰囲気で、出される料理は全て一級品だ。
俺達は彼女達が来るまでの間、コーヒーとスイーツを食べて待っていた。
「旦那様!お姉さま!このモンブランおいしいです!」
アリサはここで出されたモンブランを食べて喜んでいた。
おいしさのあまり、アリサはモンブランを勢いよく頬張り、口元にはクリームが付いていた。
「も~、アリサあなた、口にクリームが付いてるわよ?こっちに顔を向けて?」
「んっ!メリアお姉さまありがとうございます!」
メリアはアリサの口元に付いてしまったクリームを、ハンカチで拭ってあげていた。
その光景はまるで、母親が子供を世話しているようだ。
「あら、アリサお姉さま、はしたないわ」
「あらエリサ?嫉妬しているの?」
「違いますわ!」
エリサはアリサがメリアに世話をしている様子を見て、軽く嫉妬している。
アリサはしてやったりという風にエリサを見る。
「アリサはそんな事言わないの」
「はい、お姉さま」
先ほどまで上機嫌だったエリサは、その言葉を聞いて少しへこんでいた。
「エリサ、それよりあなたが食べてるそれは何?」
「これはフルーツタルトというらしいですわ!普段食べないので新鮮です!」
「そう!それは良かったわね!」
メリアはそんな二人をうまくコントロールしている。
流石は長女といったところか。
そんな仲睦まじい3人姉妹を見ていて、俺は懐かしい気持ちと悲しい気持ちが同時に沸き上がり、微妙な心境になっていた。
その感情になったのには、俺は過去にある。
過去俺には10歳年の離れた葵という姉がいた。
姉は中学や高校時代、かなりの男子から告白されるだけでなく出歩く先々でナンパされるほどのかなりの美人で、彼女の抜群のプロポーションは誰もが目を奪われたという。さらに中高ともに学年一位で卒業するほど頭がよかったようだ。
性格はすごく優しく温和で、誰にも怒るようなことはしなかった。そんな性格と“大きな母性の象徴”が相まって、学校の人気者というより聖母のような存在であった。
そんな性格もあって学校の人や近所の人等誰からも好かれるような人でもあったらしい。
母は衆議院議員として外務大臣や国土交通大臣を歴任し次期首相とも噂されているような人で、父は陸上自衛隊東部方面総監(陸将)を務める。
両者ともにかなり忙しい職や職位にあるので、ほとんど家に帰ってこない人たちだった。
そのため、俺の世話は全て姉の葵がしてくれていていた。
普通の家庭であれば、姉のような年齢の人達は大学生から社会人になっているか大学院に行っているような年齢だったが、俺を世話するために大学すらいかず。むしろ俺の世話をすることを望んだらしい。
働かずとも、多額の仕送りで何不自由なく生活できるというのも姉をそうさせた一因だろう。
なので、姉は高校卒業後、ずっと家で掃除と洗濯等の家事をこなす主婦のような生活を送っていた。
その頃の俺は何故かむきになって、そんな姉を怒らせようと我が儘なことを言ったり冷たい態度をとったりしたが、姉は笑顔のまま「はいはい」といって流すだけだった。
その後も姉は不平不満も言わず、俺を大事に育ててくれた。
そんな愛情をたっぷり注いでくれる、姉との生活は俺にとって楽しく幸せだった。
しかし、そんな幸せな日は突然終わりを告げた。
それは俺が中学に進学してしばらくたった頃。
いつものように家に帰ると、家じゅうが荒らされたあとがあり、さらにそこら中に血の跡があったのだ。
「姉さん!葵姉さん!」
その光景を見た俺は必死に姉を呼ぶが、反応は一切帰ってこない。
まさかとは思いながら俺は居間に向かうと、そこには大量の血の池の真ん中で倒れている姉がいた。
そんな状態を見て俺は姉をゆすって起こそうと、体に触れると既に冷たくなっていた。
「そ、そんな……」
姉は何者かに襲われ殺されていたのであった。
しかし、よく見れば姉の手には包丁が握られていて、それにも血が付着していることから、姉もその犯人に抵抗する為、この包丁で犯人を切り付けたのだろう。そして恐らく家の至る所にある血痕は犯人のものに違いない。
その後の捜査で、すぐに姉を殺した犯人は逮捕された。
犯人は、高校時代に姉の事がずっと好きだったようで、卒業後も何度か付き合いたいと申し出ていたらしいが、その全てを断られたので、攫って薬漬けにして自分のものにしてやろうとしたらしい。
しかし、姉の激しい抵抗に遭った犯人は勢い余って殺してしまい、目的を失ってしまった犯人は家のタンスにあった数百万を盗み逃走したらしい。
当然犯人は、強盗殺人罪で起訴され、死刑判決を言い渡された。
俺は、それ以来ふさぎ込み、学校ではだれとも話すこともなくなってしまった。
そしてその頃からこの悲しい現実から目をそらすために、色々なミリタリー系雑誌や本を読みあさっていた。
しかし、その傷は今も癒えることはない。
(ああ、もう一度会って、ありがとうと言いたかったのに……)
「……ワタ?そんなにボーっとしてどうしたの?」
「旦那様?」
俺が過去を振り返っている間、他の3人にはボーっとしているように見られていたようだ。
そんな俺をメリアは軽くゆする。
エリサとアリサは不思議そうな顔で俺を見ていた。
「おっと、ごめん。ちょっとね」
「なんか悲しそうな顔をしてたけど……」
「そう?でも、大丈夫!……そういえばそろそろ来る頃じゃない?あ、ほらほら。あっちから来たよ」
すると俺の指さす方向には、ぞろぞろと人が向かってくるのが見えた。




