347.久々の温泉
「あ、うん」
そのメリアの何とも言えない威圧感に押され、返事をするので精一杯だった。
「どうしたの?ワタ?あなたには怒ってないわよ!さぁ行きましょ!疲れているでしょ?」
「そ、そうだな!疲れたし早くご飯食べて温泉入りたいし!」
そんな俺の気持ちを察したのか、メリアは一転、少女のような笑顔になり、俺に抱きついていた。
その状況についていけず、エレシアやヴィアラ、アリサはポカンとしたまま固まっていた。
そんなことを意に介せず、メリアは俺の腕を引っ張り、後宮へと向かう。
後宮に着くころには、外は完全に暗くなっていた。
付近を見渡すと、国民への電気供給が始まり、出雲国に行く前の灯る明かりは松明や灯籠のようなものに比べ、城下町の家や最近できた商業ビル等のほぼすべてに明かりがついている。
さらに、まだこの時間も運行している電車の走行音も聞こえる。
ここから見るだけでも、格段に国民の生活水準が向上していることに俺は一安心した。
「早く、戦争を終わらせないとな……」
「そうね。でも、大丈夫。絶対この戦争は終わらせる」
しかし、このアルダートは穏やかだが、今も国境付近では帝国による脅威に常にさらされている人たちはいる。
俺が来る頃よりは減ったが、今でも兵達の犠牲は止まることがない。
その為には、帝国の降伏か早期講和に持ち込むほかない。
そしてなるべく早く国民全員が安心できる環境をつくらねばと、そう二人は心に誓った。
後宮内に入ると俺は真っ先に温泉へと向かった。
メリアには「ご飯が先じゃないの?」と言われたが、そんなことより俺は温泉に入りたかった。
この疲れた体と心を同時に癒すには温泉が一番だと思っているからだ。それに温泉に入ったあとのご飯とお酒はさらにおいしく感じるとも思っている。
それよりも単純に温泉が好きなだけだが。
身に着けていたものを破るような勢いで脱ぎ。
そして欲室内に入り、しっかりと体を洗ったあと一目散に湯船にむかう。
「ヒャッホウ!!」
ドボン!
俺は入りたい気持ちが抑えきれず、そのまま湯船に飛び込んでいた。
飛び込んだ瞬間、盛大に水飛沫を上げていた。
(一応、飛び込んだ先には誰もいないことを確認したが、他のところでやったら大変だ)
「何!誰?」
「もー!目に入ったじゃない!」
(おっと、先客がいたようだ)
声のする方向をみると、そこには頭にのせていたタオルや顔がびしょびしょのキューレとステラがいた。
「二人とも、ごめん!入りたい気持ちがどうしても抑えきれなくて飛び込んじゃった」
その二人に俺は手を合わせ謝る。
対する二人は予想していなかった人物の登場に、口を開けたまま固まっていた。
「おい?二人とも止まってるよ?」
「「ワ、ワタ!」」
ようやく状況の読み込めた二人は、一拍遅れて驚きの声を上げていた。
「もう、驚かせないでよ!」
「ゲホゲホッ!目と鼻に入った~」
キューレは驚かされたことに少々不機嫌な様子だ。
ステラは俺が着水した地点から近かったこともあって、目や鼻に水が勢いよく入ったせいで咳き込んでいた。
「ゲホッ……。ワタ、おかえりなさい」
「ただいま、ステラ。ごめん、水一杯入っちゃったね?大丈夫?」
「うん、びっくりしちゃったけど、これぐらいなら大丈夫」
ステラは急に現れ、さらに盛大に水飛沫を上げた俺に対して怒るようなことはせず。むしろ、笑顔で俺のことを出迎えてくれた。
そして、俺に正面から抱きつき、そのまま唇にキスしてくれた。
「もー!私のことも忘れないで!」
「ごめん、キューレ」
そんな俺達を見たキューレは、居ても立っても居られなくなり、俺の背中に抱きついてきていた。
どうやら、久々に会えたことを喜んでくれているようだ。
しばらく俺は柔らかい二人に包まれながら、これまで二人が何をしていたのかを聞いていた。
キューレとステラは俺が出雲国に行っている間。ミスティア隊留守部隊と一緒になってアルダート城内の演習場で射撃訓練や近衛軍団の隊員たちを交えた演習を行っていたようだ。
さらに、実践訓練の一環としてサバゲ―をしていた。
サバゲーは当初、ミスティア隊等が所属する後宮管理局警衛部内部の人間だけでやっていたが、その話を聞いた近衛軍団軍団長のセレナが隷下部隊のみならず、他の陸軍や海兵隊等の部隊や法執行機関等の銃を扱うすべてに「近距離戦闘なら実戦さながらの訓練が可能だ」と広めたようで。今ではそのほとんどが実際に訓練として取り入れているそうだ。
ただ元居た世界とは違い、エアソフトガンの威力は法律によって1J以下と厳しく定められていたが、こちらの世界では広い訓練施設でのみ200m飛ぶように改造され(室内では同じ1J以内)、元居た世界で言う空気銃並みだ。
元居た世界でよくサバゲを嗜んでいた俺はそれを聞きゾッとしていた。
エアソフトガンでも撃たれれば結構痛みを感じるし、当たり所が悪ければあざになったり血がにじむというのに、それ以上の威力となれば恐怖さえ感じる。
しかし、実銃のように貫通したり四肢を損傷したりしないだけましだが。
それ以外の日二人は、開発が進んだアルダート駅付近でショッピングを楽しんだり、最近話題の飲食店に足を運んでいたようだ。
「――それでね!」
「うん、うん」
俺は二人のマシンガントークを嫌な顔もせず聞いていた。
話を喜んで聞いてくれて嬉しいのか、止まることなくしゃべり続けていた。




