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321.殿(しんがり)

 

 時は戻って湯之沢城地下


 ワタは今後の作戦を提案していた。


 まず、お荷物の俺とメリア、ローザ、ベル、ヴィアラ、エレオノーラ、ミレイユ、エレザの8人は表門からミスティア隊とメランオピス隊と共に大和に帰還する。

 当初メランオピス隊も残留する予定だったが、直属の指揮官であるレナが負傷等による指揮を継続できる状況にないとメリアが判断した為、急遽部隊ごと帰還することになった。


 これにより、残った王国軍が俺達を守ることよりも自分たちを守ることに注力することができる。

 そして残存兵力を集結させ、俺達が湯之沢城から十分な距離まで離れられるように時間稼ぎをしてもらう。

 時間稼ぎをしているうちに、通信施設を復旧させたのち、大和にいる第一海兵遠征軍司令部と連絡を取り、救出部隊を送ってもらう。


「……ということなんだが、何か意見はあるか?」

「ワタ様!私は最後まで残ります!ここに残って彼らと一緒に戦います!」


 エルノイド大佐含めここにいるみんなは頷き俺の意見に肯定の意を示してくれてうたが、ここで珍しくベルは俺の考えに反して残ることを進言してきた。

 恐らく彼女はここに残ることで、帝国軍を少しでもここで足止めして俺のことを逃がそうとしてくれているのであろう。


「いや、君は本国にいる部下達が待っているんだから帰るべきだ、それに道中俺の警護もベルにやってほしいんだ」


 ただ、ベルは本来王国近衛軍団第四師団の師団長という大きな部隊の長を務める身なので、この場で何か命に係わることが起きてしまっては大きな支障が出てきてしまう。


「私……」

「ベル、気持ちはありがたいが、ここは俺の言うことを聞いてくれ。いや、これは命令だ」

「……はっ!了解いたしました!」


 最後までベルはここに残ろうと小さな抵抗をしてきたが、俺が“命令”というと素直に聞いてくれた。


「両陛下が安全地帯まで着くまで、ここで我々は帝国軍をこの地に釘付けにして見せましょう。これまで帝国軍から受けて来た屈辱、此の地で散っていった戦友たちの為にも最後まで戦い抜きます。もう、これ以上帝国に好き勝手にさせません!」


 やっと正気を取り戻したベレッタ中佐はそういって宣言する。

 ベレッタ中佐はこれまでの帝国から屈辱を晴らすという気持ちが、その宣言から強く読み取れる。


「ありがとう……、後は頼んだ」

「お任せください」

「道中お気をつけください」


 俺は傷付いた彼らを残し自分たちだけ先に帰ることに心苦しさを覚えつつも、逆にここに自分が残ることによって起こりうるデメリットの方が多きいと自分に言い聞かせ、ヴィアラ達と共に部屋を後にすることにした。


「し、失礼します!」


 しかし、部屋を出ようと椅子から腰を上げた瞬間、慌てた様子の一人の女性兵士が部屋に入って来た。

 その慌てた表情と様子から、よっぽど重要で緊急を要するというのを俺は察した。


「そんなに慌ててどうした?」

「て、敵襲です!その数およそ3万!既に湯之沢城裏門が半包囲されています!」

「なんだと!」


 流石にその報告に俺も驚きを隠せない。

 周囲も俺と同じような反応を見せている。

 城に侵入してきた帝国軍の幹部を倒し、さらにあそこまで損害を与えさせたというのに、3万の軍勢がすぐそこまで迫っているというのだから、驚くのは無理もない。


「ベレッタ中佐!中隊長より伝言!「勝てる見込み無し、至急応援要請を!」です」

「クソッ!」


 およそ3万という大兵力に対して、こちらの残存兵力は2730名と10分の1以下の兵力しかない。

 これではだれがどう見ても防衛側が不利と見るのは明らかの状態だ。


「陛下、今すぐこの場からお逃げください!この兵力を防ぐとなると、いくら兵器弾薬があっても、もって数時間でしょう」


 エルノイド大佐が言うように、砲弾薬や食料、医薬品などの補給物資はLiSMによって召喚し、蓄えられているの為補給面では何の心配もない。しかし、それを運用する人手の補充を受けられない今、それらを使って時間稼ぎをするのが精いっぱいだ。


「……、そうだな」


 覚悟を決め、こちらを真剣な眼差しを向けるエルノイド大佐から逃げるように進言された俺は、言葉通りこの場から去ることを決断する。

 その気持ちを後押しするようにエレオノーラとメリアの二人に片腕ずつ捕まれ、表門へといざなう。


「ご主人様、さぁ、参りましょう」

「ワタ、行くわよ。エルノイド大佐、ありがとう、後は頼んだわ」


「御意、道中お気をつけて」

 エルノイド大佐とベレッタ中佐は8人が地下室からいなくなるまで、敬礼で見送った。


 エルノイド大佐は、これまで湯之沢に駐留している王国兵の指揮を行っていたレナ大佐が離脱した為、彼女と同じ階級のエルノイド大佐が残留部隊の指揮を執ることになった。


「これよりここの指揮を俺が預かった、よろしく頼む」

「「「はっ!」」」

「さて、ボブ中佐。無線通信はどうなった?」

「はっ!ただいま最終チェック中です」

「どれぐらいかかる?」

「そこまで、かからないかと……、少々お待ちください」


 エルノイド大佐の問いに答えるべく、ボブ中佐は隣の部屋にある通信室に足早に向かっていった。

 隣の部屋に向かってしばらくもしないうちに、ボブ中佐はエルノイド大佐の元に戻って来た。


「無線通信が復活した模様!これで本部と連絡が取れます!」

「おおっ!これなら負けることは無くなったな!」

「すぐに、本部に連絡をしましょう」

「そうだな、俺もその部屋に行く。ベレッタ中佐も来てくれ」

「はい!」


 無線通信が復活したことを受けて、すぐに大和にある第一海兵遠征軍司令部のデクト・レノア海兵隊大将と縦須賀港沖に停泊中の強襲揚陸艦アメリカに座乗している第一連合艦隊連合艦隊参謀総長、オルデント・リディア大将に通信を行う為3人は隣の通信室へと向かった。

 通信室へと向かう3人の顔は、数分前と打って変って非常に明るくなっていた。




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