315.大きな傷跡
「ソニックストライク!」
ネイサンに対してエレオノーラは、“ソニックストライク”という一気に自身の行動速度を音速近くまで上げる身体強化型の魔法を使っていた。
魔法の効果で瞬間移動に近い動きをしたエレオノーラは、瞬く間に彼の懐に入り込んだ。
そしてエレオノーラは持っていた剣を、彼の喉元に今まさに突き付けようとしていた。
「リアクティブアーマー!」
ガキンッ!
「……ッ!」
しかし、エレオノーラの剣が彼の喉元に突き刺さることなく見えない何かに阻まれていた。
見えない剣を通さない何かがそこにあると瞬間的に悟ったエレオノーラだが、さらにその何かに対して攻撃を加え無理やりその何かを突き破ろうとする。
「ハッ!ハァァァッ!」
ガンッ!ガキンッ!
「ハハッ!無駄無駄ぁ。たとえいくら強い技、魔法をこのネイサン様のリアクティブアーマーに当てたとしても、絶対に破ることはできない!」
エレオノーラはなおもネイサンが発動させた“リアクティブアーマー”を破ろうと攻撃を繰り返すが、びくともしない。
さすがにここまで攻撃を繰り返して破れないと分かったエレオノーラは、一歩その場から下がる。
そして、何やら腰のポーチから何かを取り出す。
「……、フフフッ、どうやらそのようね。こんなに硬い防御魔法は初めてだわ」
「本当ですか!それは光栄ですね」
「まだそんなに余裕があるのね?大したものだわ。ただ、これはどうかしら?」
エレオノーラは腰につけてあったポーチから、魔石を取り出していた。
そしてエレオノーラは取り出した魔石に魔力を込めた。
「光よ!我に!」
魔力が十分に魔石に込め終わったと同時に詠唱すると、とたんに魔石がまるで太陽のように明るい光を発し始めた。
「うっ!」
光を直視してしまったネイサンは、一瞬ではあるが視力を奪われていた。
一方でエレオノーラは目を瞑っていたため、その光で視力を奪われることはなかった。
この光によって術者の集中力が切れたことによって“リアクティブアーマー”が消え、さらに大きな隙ができていた。
「隙ありっ!」
その隙にエレオノーラはネイサンに斬りかかっていた。
ネイサンはその攻撃を斬りかかられる直前に勘で避けていた。
しかし、当然ネイサンは視力を奪われていたので上手く避けきれず、左肩から先を切り落とされてしまう。
「グハッ!くっ!」
ネイサンは腕を斬り落とされ、それに伴う痛さに苦悶の表情を浮かべる。
しかし、出血を止めなければ死んでしまうと思ったネイサンは、即座に回復魔法を自身にかけていた。
ただ、回復魔法をかけたところで左腕は元に戻ることはない。
「あらあら、さっきまであんなに余裕だったのに、もうおしまいなの?」
「クソッ!よくもっ!うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ネイサンは左腕を失ったことによって冷静さを失い、決死の思いでエレオノーラに残った右腕で斬りかかっていた。
そのネイサンの死をも厭わない決死の攻撃に対して少し押されていた。
ガキンッ!ドンッ!
「キャッ!」
エレオノーラはネイサンの戦闘意欲を削ぐために、剣の背を使ってネイサンの持っていた剣を折ったのだがそれでもネイサンの勢いは止まらず、そのままエレオノーラを蹴り飛ばす。
「死ね!」
ネイサンは倒れたエレオノーラに向かって、尚も折れた剣で斬りかかろうとしていた。
「「エレオノーラ!」」
「今助けます!」
ガキンッ!
エレオノーラにあと少しで剣の刃が届こうとしたとき、誰かによってその刃が防がれていた。
「ベル様?ローザ様?ミレイユ様?それにエレザ様?」
エレオノーラとネイサンの間に割って入って剣を止めていたのはエレザだった。
そしてその後ろには、他の場所でネイサンの部下と戦っていたはずのベルとローザが、さらにはワタの護衛をしていたミレイユがついていた。
「な、なんだと……」
部下と戦っていたはずの敵を見たネイサンは、これまでの怒りを必死に抑え冷静さを取り戻しこの状況を整理する。
(こいつらがここに来た言うことは、あの子たちはやられてしまったか捕まってしまったんだよな……)
彼は部下と戦っていたはずの敵全員がここにいるという状況から、彼女たち全員が倒されてしまったことを悟る。
「あんたんとこの、女どもは全員いなくなったよ。あと、その取り巻き共も全員始末したからな。あとはお前さんだけだぞ?どうする?ここで降参しておくか?」
エレザは部下だけでなく片腕まで失ってしまったネイサンに、優しく降伏を促す。
しかし、その瞬間開き直ったネイサンは残った右手を地面にあて詠唱し始める。
「あーあ、負けちゃったか。では、さいなら!テレポーション!」
なんとネイサンは悲しむ様子や焦る様子も見せず、開き直ったかと思うと、“テレポーション”という瞬間移動魔法を使って逃げて行ってしまった。
「なっ!クソッ!逃げられたか!オイ!エレオノーラ!奴を追うことはできないのか!」
「エレザ様、残念ながらテレポーションで逃げた相手を追うことは不可能です。諦める他ないでしょう」
「それより、ワタは?ワタは無事なんだろうな!それとレナは?」
「大丈夫よエレザ、ワタの近くにはメリアもいるしヴィアラもいるわ。レナは結構弱ってたけどメリアに傷は全部治してもらっていたみたいだから心配はいらないわ」
「そうか、よかった」
こうして、城内に一斉に侵入してきたネイサン達との戦いは終わった。
しかし、この攻撃でもともと城を守っていた警備兵のほとんどが死傷。
さらに城主の頼明も負傷し、その忠臣であった重左エ門という人物は主人を逃すために囮となり戦死してしまったという。
城内に残っていた帝国兵達は、ようやく体勢を取り直すことのできた海兵隊とネイビーベレー、メランオピス隊、ミスティア隊の各部隊が総出で対応し、そのおかげで侵入してきた帝国兵全員をとらえるか殺していた。
これにより帝国による城内での戦闘は完全に集結した。




