300.湯之沢城防衛戦7
帝国軍サイド
「例の部隊はどうなっている?」
「彼らはよくやってくれているようです、そのおかげで敵は混乱している模様です。」
例の部隊というのは湯之沢城の隣の山の頂上近くにいる“魔術妨害試験小隊”のことで、この部隊はネイサンが王国軍通信網を破壊若しくは妨害するために編成させた。
この小隊は全隊員が持つ雷属性魔法とこのために作られた魔力増幅装置を使って半径20㎞範囲内にある王国通信機器に対して何等かの障害を起こさせることが任務となっている。
それがどうやら王国軍に対して効果てきめんだった様子で、そのおかげで混乱させることが出来たようだ。
「そうか、なら後は俺達の作戦の成功にかかっているな……、それにしても王国の連中必死だな、もう少し見物してくるか?」
男は帝国騎馬隊による奇襲によって苦戦を強いられているところを眺めながら余裕そうな笑みを浮かべていた。
帝国軍側の奇襲作戦は大成功し、王国軍海兵隊が守る守備陣地は瞬く間に帝国側の手に落ちていた。
さらにその勢いに任せ、逃げる海兵隊に追撃をかけ、さらに王国側に損害を与え出血を強いていた。
「ネイサン大佐そんな余裕こちらにはありませんよ!」
「そう、カッカするなって、せっかくのカミラのかわいい顔が台無しだろ?」
「も、もう!」
パシンッ!
「痛いじゃないか、カミラ」
「大佐が悪いんです!」
カミラと呼ばれた彼女はそんなネイサンと呼ばれた男の言葉にまんざらでもない様子でいるが、こんなに死と隣り合わせの状況にも関わらず呑気に話すネイサンを正すように、上官であるはずの彼の頬をカミラは平手で容赦なく叩き乾いた音を周囲に鳴り響かせる。
そんなカミラの階級は中佐で、外地潜入工作連隊副連隊長を務めている。そんな彼女はネイサンお気に入りの副官だ。
藍色の長髪と緋色の目が特徴的な美女、小柄な体格をしているが(150㎝弱)胸は凶悪(ECUP)
彼女は帝国軍内でも屈指の魔法剣士で武闘大会に5回出場して5回とも優勝するほどの実力を持っている。
「奇襲は成功したとは言え、少なくない味方の兵が倒れている状況でよくも平気でいられますね!!」
「痛っ!まぁ落ち着けって」
カミラの言う通り奇襲は成功したものの犠牲が出なかったわけではない。
特に最初の奇襲の際は敵基地前に設置してあった爆弾のようなもので一気に30名ほどが戦死若しくは重傷していたのだから。
「カミラ愛されてるねぇ!」
「ヒューヒュー!」
「コラッ!デボラにネラ!」
そんなカミラの真剣な話をまるで無視するかのようにデボラとネラと呼ばれた彼女たちはまるで長年連れ添った夫婦ような雰囲気の二人のやり取りを見て、面白がって茶化していた。
デボラの階級は陸軍大尉で外地潜入工作連隊本部中隊長を務める。カミラと同じ魔法剣士で幼馴染でもある。
彼女の魔法剣士としての腕前は相当なものだが、幼馴染であるカミラには長年負かされっぱなしのようだ。
そんな彼女は藍色のショートカットで緋色の目をしており、モデルのようなスラリとした体形が特徴(DCup)でカミラと並んで立つとデボラの方がお姉さんのように見える。
「だってよー、二人ともお似合いじゃないか」
「カミラさん、そのまま大佐にもらって頂いたらよろしいのでは?でも、そうすると帝都にいる奥様が……」
「も~!コンリナまで!」
デボラに同調してカミラのことを茶化すコンリナとネラは二人とも魔術師で火属性魔法を得意とする。
特にネラの爆裂魔法に関しては帝国最強の呼び声が高く、噂では帝国軍に反旗を翻したとある貴族の町を彼女はこの魔法で跡形もなく消し去ったと言われている。
そしてこの二人は“恋人”同士なのだそうだ。
「お?カミラは俺のこと好きなのか?よしじゃあ今夜勝ったらッ!……痛い!痛いって!殴るなって!」
「大佐のバカ!……、そろそろ行きますよ?」
「そうだな、予定の場所に進むぞ、それと第二、第三大隊に作戦開始を伝えろ」
「「「了解」」」
それから少しして第二、第三大隊が王国軍と湯之沢城の守備隊の守る城の正面への強襲をかけた。
しかし、この強襲は王国側に察知されていたようで、裏門を攻めた第三大隊は敵の激しい砲撃や銃撃によってあっさりと壊滅。残る第二大隊は彼らの死を無駄にできないと感じたのか、激しい攻撃を続ける王国軍に対して当初は善戦し、一部の王国軍を城内部まで後退させていた。
「報告!」
「どうした?」
「城に突入した第二大隊と第三大隊が全滅!残るは我々第一大隊のみとなりました!」
報告してきた兵士が言う第二大隊と第三大隊は、ネイサンが今率いている第一大隊の湯之沢城本丸へ裏から潜入させるための陽動の為正面から攻撃していた。
作戦としてはうまくいったが、二個大隊が全滅というのは戦術的には失敗といえるだろう。
「そうか……、彼らはよくやった……、よし……、行くぞ!お前たち!」
そのネイサンの一声に第一大隊の面々は大きく頷いた。
部下達を一瞥すると、ネイサンは密かに用意していた湯之沢城本丸へと続く穴へと入っていった。
それを見届けると、カミラや他の兵達も続いた。




