289.ナイトレイド
その日の夜。
城にいるほとんどの人が休むなか、湯之沢山城の大手門のちょうど真裏に位置する麓の森には怪しく動く集団がいた。
そこで隊長格と思われる男と報告に来た女性兵が話し合っている。
「偵察したものによると、この城に“奴”もいるそうです」
「そうか、これは大きな収穫になりそうだ、兵の数は?」
「城を警備する兵は多くとも300名ほど、王国兵の姿は城では見かけなかったと報告が、ただ……」
「ただ?」
「偵察に向かった数名が行方不明になっていることを考えると恐らく王国兵にやられてしまった可能性がありまして」
「そうか、それは少し警戒しないといけないな。だがそれも俺とあれがいれば心配ないさ」
「流石はネイサン様!」
ネイサンと呼ばれた男はその女性兵士からの悪い情報を聞いても、これまで帝国軍が王国軍から被った現代兵器での脅威というものを恐れていないのか何か現代兵器にも通用する策を持っているような様子で、むしろ戦えることを楽しみにしているようにも見える。
「報告!」
「なんだ!」
「はっ、偵察兵より王国兵の防衛陣地を発見したとのこと!その数1500!」
「そうか、大したことはないな、我が方の準備はどうなっている?」
「はっ、今現在敵の陣地目前で配置についております、敵陣地に侵入する為の突破口も既に確保されている模様」
「そうか、よくやった……よし、後10分したら攻め込むぞ、兵に伝えてこい」
「了解しました、では後ほど」
「ああ、頼んだ」
(よし、これまで王国軍にはいいようにされてきたが、今日は少し痛い目を見てもらおうか!クククッ、楽しみだ)
一方その頃湯之沢城の裏門から1㎞程離れた位置にある第一海兵歩兵大隊が設営した前哨基地(CP)内。
基地は守りやすいように六芒星の形をしており、指揮所から塹壕の先端部分まで500mほどあり比較的広くつくられている。
その周囲は塹壕で取り囲みその外側には土嚢を積み上げ簡易的なバンカー(掩体壕)と壁を築き、そのさらに外側には鉄条網とクレイモア指向性地雷やワイヤーに手りゅう弾を括りつけたブービートラップ等を張り巡らせていた。
何故彼らはここにここまでの陣地を築いたのか?
そもそも第一海兵歩兵大隊はベル達一行を湯之沢城へと護衛する為にわざわざ本隊である第一海兵師団から抽出された部隊だったのだが、部隊到着後付近に潜む所属不明の中規模部隊の存在が確認され、それがこの後到着する陛下たちに危害を加える可能性が考えられた為このように少し大げさな拠点を築き警戒しているのである。
そして今この部隊と城内の陛下一行を守る部隊と合わせて混成連隊を編成している。
特設陛下警護隊
指揮官:レナ大佐
総兵力:4160名
隊本部
メランオピス隊(一個小隊)
ミスティア隊(一個小隊)
混成装甲車両中隊 (後続の部隊と合流し中隊規模に)
中隊本部
第一装甲小隊(M2A3)
第二装甲小隊(AAVP7)
第三小隊
通信中隊
通信情報管理小隊
連隊本部付通信小隊
中継基地防衛小隊
中継基地管理小隊
輸送中隊
連隊本部付衛生小隊
海軍特殊部隊チーム4(一個中隊相当)(増援部隊)
第四海兵武装偵察連隊第四一大隊第一中隊(増援後付近を偵察し情報収集中)
第一海兵師団第二海兵旅団第一二一海兵連隊
第一海兵歩兵大隊
本部中隊
迫撃砲中隊
3個小銃中隊
工兵中隊
第一海兵衛生連隊第一中隊
前哨基地では大隊長であるベレッタ中佐が指揮を執っていた。
彼女は10歳の頃から20年以上軍に属している実戦経験も豊富な叩き上げの軍人である。
その為部下からは頼れる“姉御”的存在として一目置かれている。
「敵の動きはどう?」
「偵察に出ている分隊によると、敵は動き始めたそうです」
「敵の人数は?」
「完全にはつかめていませんが、少なくとも一個大隊はいるかと思われます」
「多いわね……」
「ええ、しかし、こちらには実戦経験もあるミスティア隊もいますので心配ないのでは?」
「いや敵を侮ってはいけないわ、確かに精鋭といわれる陸軍のメランオピス隊や陛下直属のミスティア隊もいるけど、所詮はそれまで。一番こちらにとって痛いのは表門を守る装甲車両部隊が万が一危機的状況に陥った時こちら側にすぐにやって来れないことよ」
余裕そうな部下に対してベレッタは非常に危機感を覚えていた。
それはこの湯之沢城は連なる山の中心に建てられていて、表門と裏門は頂上を介してつながっている為、そこを迂回する為の道やトンネルが無いので、車両がこちら側にやってくる場合数キロ先まで行ってから山を半周する形出なければ行くことが出来ない。
その為、危機的状況に陥り火力や負傷者の搬送が必要になってもすぐには駆け付けられないのだ。
「それよりこの情報をすぐに大佐に報告を上げて、それから小隊全員に戦闘配置につくように伝えるように」
「了解!」




