288.旅館でのひと時
温泉から上がった俺達一行は夕食をとるため、旅館の松の間と呼ばれる20人ぐらいが入れるような上客専用の部屋へと向かっていた。
そこまで向かう途中に俺達の手にはとある飲み物が握られていた。
「プハーッ!やっぱり温泉の後のコーヒー牛乳はたまらん!」
俺は温泉の後の名物といえばコーヒー牛乳だろうと思い、着替え終わった後すぐにLiSMで召喚して置いたのだ。
人によっては普通の牛乳派やフルーツ牛乳派もいるだろうが、俺は断然コーヒー牛乳だ。
「これ、おいしいわね!」
「温泉の後においしいと聞いて飲んで正解でした!確かにおいしいですね!」
どうやらメリア達もこの味をお気に召したようで、一気に飲み干していた。
そうこうしているうちに松の間へとついていた。
中に入ると部屋の中心に低く黒い机が並べられ、そこには大きな白身魚の活け造りや炊き込みご飯、この近くでとれたのであろう様々な山菜の天ぷら等々、机からあふれんばかりの料理が並んでいた。
「おおッ!素晴らしい!」
その光景に俺は思わず声が出ていた。
俺達一行は早速席につき優雅な食事を楽しむことに。
席についてからメリアは俺の右腕に抱きつくように座り、箸でつかんだ刺身を俺の口にあーんしてくれた。
「ワタ、はい、あーん」
「ん、ありがとう、あーん、……うんうまいな!うぐっ!」
「ご主人様!どうぞお召し上がりください!」
メリアがあーんしてくれた後、ほぼ間髪入れずに今度は左腕に抱きついているエレオノーラが出し巻き卵を口に放りこんできた。
(両側から柔らかい物に挟まれてさらには食べさせてくれるとはなんという幸せ!)
しかし、この状態を良く思わない二人によって、この場は一気に暗転する。
「ワタサまァ?何デスかそのオンナは?」
「同感だわ、メリアはいいとしてもひょっと出のあなたが慣れ慣れしくするんじゃないわよ!」
(しまった、ベルのカオスモードが発動してしまった……)
その光景を見て案の定、目の前に座っていたベルは黒い瘴気を出しながら左腰の浴衣の帯にさしたホルスターからP226を抜き放ちエレオノーラに向け。ローザも同じくP226をホルスターから抜きエレオノーラに向けていた。
「んんっ!……、この子はだな奴隷として売られていたところをだな……」
一瞬にして危機的状況に陥ったエレオノーラだが、こんな状況に置かれているにも拘わらず冷静に二人を見つめていた。
「邪魔モノ、コロス、死ネ!」
ガン!ガンッ!
ガキン!
ベルがトリガーに指をかけようとしたその刹那、エレオノーラは自分に向けられた銃を剣の鞘で弾き飛ばしていた。
銃を失いベルは一瞬ひるむが、それでも諦めずベルは自分のひざ元に置いていた自分の剣を抜き放つ。
それを見たエレオノーラは剣を鞘から抜きベルの剣とぶつかり合い甲高い音が鳴り響く。
「テイコうスル気か?大人しくころされろッ!」
「いやよ!せっかくご主人様と運命的な出会いができたのに、あなたがたのような小娘なんかに殺されてたまるもんですか!」
「こ、小娘とは何よ!」
エレオノーラの「小娘」という言葉に怒りを感じたローザは、ベルと同様に銃を弾き飛ばされていたので剣を抜き剣先を向けていた。
「小娘はいい過ぎたかしら?いえむしろ言い足りないわ、そうね……まだ生まれたばかりの赤子とでも言った方がいいかしら?」
「キサマ!」
エレオノーラが二人を煽るような言葉を発した為、三人の間にはさらに険悪な空気が流れる。
そして暫くの間お互いが睨みあい
「コラッ!食事中に何てことしてるの!お行儀が悪いでしょ!すぐにそれをしまいなさい!」
「も、申し訳ございませんメリア様」「わ、悪かったわよ、ついカッとなっちゃって」
「ほら見なさい!あなたたち!」
三人の険悪な空気を一瞬で断ち切ったのは他でもないメリアだった。
ただ、エレオノーラはそれをいいことにさらに二人を挑発する。
「……エレオノーラ、いい子だからそこまでにしようか?」
「あ、はい、ご主人様。申し訳ございません」
こんな調子でいられたらまた収拾がつかなくなると思った俺は、少し怒気を孕んだ声でエレオノーラを諭す。
するとその一言でエレオノーラもたまらず大人しくなる。
「……さぁ気を取り直して、食べようか!」
「「「はいっ!」」」
一時はどうなるかと思ったが俺とメリアの一声で場の雰囲気をもとに戻し、何事もなかったかのように皆はまた食べ始めた。
そして、机の上に乗っていた料理がそろそろなくなるという頃。
襖がゆっくり開き、数人の仲居さん達によって俺が頼んだある品々を運ばれてきた。
「皆さまお楽しみのところ失礼いたします、ご注文いただいた湯之沢銘酒の“囃子乃如”と“囃子乃如”で漬けた梅酒をお持ちしました」
その運ばれてきたものとは、この湯之沢でとれた米を使った日本酒やその日本酒で漬けた梅酒だった。
これは俺が日本酒好きだと聞いた遠城帝が以前大和城にいたときに教えてくれたもので、しかもそれがとてもおいしいと数ある大名の中でも評判のようで、高評価のお酒がどれ程おいしいのか気になっていたので事前にお願いしていたものだ。
「おお!日本酒!それと梅酒ときたか、これは楽しくなりそうだな!」
お酒が運ばれてきたのを見て、これまで珍しく静かだったエレザは興奮を隠せない様子だ。
「さてはこれ、陛下が選んだお酒ですね!」
「ヴィアラの言う通り!これは遠城帝に勧められたお酒で結構気になっていたから、持ってきてもらったんだ!」
「では、私がお注ぎしますね!」
「おっ!ありがとう、じゃあみんなにも注いであげて」
「はい!」
こうしてお酒が入ったことによって皆気持ちが舞い上がりそのまま夜遅くまで騒ぎつづけた。
そして、お酒がなくなり酔いも醒めた頃、俺達一行は湯之沢城内に用意されている寝室へと向かった。
これは敵からの襲撃があってもある程度は耐えることが出来ると判断されたからだ。
そして俺達は満足げに床についた。




