281.襲撃
レナから報告を聞いた後、俺はしばらく外の風景を眺めていた。
そこには遠くまで広がる水田地帯、農民や行商が行きかうあぜ道、これを眺めているだけでこれまで戦いの中にいた俺からすると、それを忘れさせるほど穏やかに見える。
そして改めてこうして眺めていると、初めて出雲国に上陸したときもそうだが、やはりここは元居た世界の日本の江戸時代頃と非常に良く似ていると思ってしまう。
しかし、そんな穏やかな時間は連続する発砲音によって打ち砕かれた。
「止まれ!……、なんだ?どこかで発砲音がしないか?」
最初にそれに気付いたのは、俺が乗るハンヴィーの助手席で通信を行っていたレナだった。
「……、陛下、敵襲の報が入ってきました」
「数は?」
「不明です、既に前方に展開していた出雲側の騎馬隊の相当数に被害が出ている様子です」
どうやら何者かによって奇襲されたようで、既に先行していた出雲側の騎馬隊が攻撃を受けてしまっていた。
「なら、こちらも応戦しろ!レナ指揮をとれ」
「了解!先行するブラッドレイ隊につなぎます……、エルファ!聞こえる?」
「(聞こえています大隊長!)」
レナは先行している騎馬隊の後ろにいる部下達へ通信を入れた。
「そっちの状況は?」
「(恐らく騎馬隊は何等かの銃器によって攻撃を受けた模様、車内から外を見る限りすでに騎馬隊は全滅している模様!残るは我々だけです!)」
「全滅……、あなた方の状況は?敵の位置は?」
「(我々もすでに銃撃を受けている状況、ですが装甲によって全て防ぐことが出来ています!銃器は火縄銃の類と推定、敵の位置はわかりません、数も不明!大隊長交戦許可を!)」
「許可する」
「(了解!)」
残念なことに、謎の襲撃によって出雲側が用意してくれた前方の騎馬隊50騎は次々と撃たれ、全滅していた。
「レナ、後ろにいたはずの騎馬隊はどこへ行った?」
俺はふと後ろにもいる騎馬隊の様子が気になり振り向いた。
しかし、そこには一騎も残っていなかった。
護衛についていた騎馬隊はこうして自分たちの周りからいなくなり、残るは俺の周りを取り囲むコンダート側の兵しかいなかった。
「確かにいませんね……、逃げられましたか」
後方に残る騎馬隊はというと、銃撃にはかなわんと思ったのか我々を見捨て後方へ退却していってしまった。
「くそっ、役立たずめ!」
その状況を見た運転手はハンドルをこぶしで軽く叩きながら軽く悪態をつく。
「落ち着け運転手、まだこちらが負けたわけではないだろう?第一こちらにはブラッドレイが残っているのだから」
「し、失礼いたしました」
「陛下、ここは一旦彼女たちに任せて我々は一旦後退しましょう、ここは危険です」
「わかった、念のため大和にいる海兵遠征軍本部に救援要請を送れ」
大和城の近くのにある遠城帝の私兵用練兵場を全面的に借り受けたので、そこに仮の第一海兵遠征軍司令部を置いていた。
そこには今回の越之国への道中で何らかの襲撃を受ける可能性も考慮してQRF部隊が編成されている。
その部隊には近接航空支援も可能とするため、第二次出雲派遣艦隊と一緒に送り込まれたAH-64E四機が編入されている。
「了解……、エンジェル1(ワタの護衛隊のレナ専用コールサイン)、ネプチューン(第一海兵遠征軍司令部のコールサイン)、エネミーコンタクト、至急QRF部隊をこちらによこしてくれ!オーバー」
「(ネプチューン、エンジェル1、了解、5分後に現場に到着予定、それまでまたれよオーバー)」
「エンジェル1了解、念のため一個戦車大隊と一個海兵中隊もこちらによこしてくれ、アウト」
「ネプチューン了解、幸運を祈る、アウト」
「陛下、後5分後に援軍が到着するようです」
「そうか、前方の部隊の状況は?」
「エルファ、状況知らせ」
「(こちらは、現在も交戦中!激しい銃撃によってこちら側の4人が負傷そのうち一人が重体です!さらに二つの車載機銃がつぶされています、このままではこちらも押し切られます、至急応援を!オーバー!)」
「了解、もうすぐでQRF部隊が来てくれる、それまで耐えるんだ!アウト」
「(了解、アウト)」
どうやら、敵の攻撃はかなり激しいようで重装備のこちら側にも負傷者が出てしまっていた。
しかも、驚くことにこちらの車載機銃のいくつかを破壊されてしまっていた。
ガンガンッ!
こちらにも敵の銃弾が飛んできて、俺の乗るハンヴィーの装甲にあたり金属同士が激しくぶつかる音がしていた。
「クソッ、敵がこっちに気付いたか!応戦しろ!」
「「「了解」」」」
俺の命令を聞いたレナと隊員たちはすぐに、自分の装備している銃に弾を込め戦闘態勢とる。
車体上部に取り付けてある車載機銃(M240B)にいた隊員も俺の命令を聞き即座に射撃を開始していた。
「今なら敵の頭が出ていないので外に出れます!」
車載機銃をうちながら隊員が外の様子を伝えてくれた。
その言葉をもとにレナや運転手、エレオノーラが車外に出て交戦を開始する。
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
車外に出るとハンヴィーの扉を盾にレナと運転手はSIG516の単連射で敵のいる方向に銃撃を浴びせる。
少し離れたところではM2ブラッドレイ4両が25㎜チェーンガンを敵に向けて猛射している。
そんなこちら側の激しい銃撃を受けた敵も流石に頭を物陰から上げられなくなったのか、銃撃が収まっていた。
「良し突っ込むぞ!」
レナは他の隊員たちに通信で突撃を促し、自らも敵のいる場所へと走り出す。




