224.さらに増える!?
ここに来る前に電車の中でメリアと俺は事前に出雲国のことについての報告書を読んでいた。
報告書はKCIAで最近できた対外情報収集部が作成していた。
KCIAによると、出雲国は元居た世界でいう日本の戦国時代後半(鉄砲が戦術としてで使われたころ)から江戸時代前半ぐらいの文化レベルで、亜人も存在し、鬼や天狗、妖狐、龍人(大陸内の竜人とは別)などが一応共存しているようだ。
帝都(首都)は出雲国の東海岸中央部の大和というところで、この国で最も人口が多くそして文化の中心ともなっている、大和の町の中心には遠城帝が住まう立派な大和城があり、そこは同時に政治の中心ともなっているようだ。
総人口はおよそ3400万で、最近になって人口の増加が顕著なのだという。
この国は中央集権的な遠城帝による正式な政治組織“遠城幕府”が存在しているが、政治や軍や治安部隊・教育等が制御できておらず、地方では度々庶民による反政府運動や政府の出先機関に対する襲撃・政府関係者の襲撃が起きていて、非常に治安が悪くなってしまっている。挙句の果てにはクーデターを起こそうと画策する元藩主同盟が出てくるありさまだ。
そこにさらにデスニア帝国海軍による海上からの侵攻を受けて、帝国に宣戦布告している状況だ。
そして、対外軍事面においてはデスニア帝国よりやや劣っているようで、特に海軍においては、まず艦載砲は質の悪い火薬を用いているということもあって、飛距離や破壊力が乏しく帝国艦艇に対して苦戦を強いられていることや、元々沿岸で戦うことを想定して建造していた船を使っているので、遠洋などでの運用に難がある等が挙げられる。
今回このようにしてコンダート王国に危険を冒してまでも使節団を送って来たのは、帝国海軍に対して苦戦を強いられているこの状況を何とか解決しようとした結果でもある。さらに、対帝国戦に対する援助以外に、王国による様々な“援助”を求めたいという意図があるようだ。
「今回はただ挨拶に参ったわけではございません、今我が国は貴国も同じように、デスニア帝国によって毎日のようにせめて来ている状況にあります、そこで、これを打破すべく我々を迎えに来てくれた鋼鉄の艦隊をお持ちの貴国にご助力願いたく、そして同時に軍事同盟を結びたくこの場を設けさせていただいた次第です」
やはり千代は情報通り、こちらに軍事同盟の話を持ち掛けてきた。
「それに関しては我が国としても軍事同盟をぜひ結ばせていただきたく思います、共通の敵を倒すためには他の協力も惜しみません……、しかし、それには条件があります……(ほら)」
いつまでも何も言わないワタに、メリアは話の続きを促すように肘でわき腹をつつく
「んんっ!失礼、それについては私から……、まず軍事同盟を結ぶ前にこちらとしては国交を結ぶのが先決だと考えています、そして両国間の情報共有等を円滑にすべく在外公館をお互いの国に設置することを提案したい、さらに我が王国軍の艦艇や航空機が一時駐留できるような場所を提供していただきたいがいかがでしょう」
条件を突き付けられた格好の千代は、先ほどのメリアの同盟についての回答が得られた時の安堵の表情とはうって変わって、今は困惑した表情に変わっていた。
「そ、それについては一度、ち……、いえ、遠城帝に確認を取らせていただけないでしょうか?」
「そうですね、そちらの方が円滑にいくようでしたら、そのようにいたしましょうか……、他に何かございますか?」
「千代さん、こちらからも一言いいかしら?」
「あ、はい、なんでしょうか?」
「コンダート王国と国交と同盟を結ぶならエンペリア王国もその中に入れて頂戴下さらない?」
「そうですね、その方がさらに強固なものとなるでしょう」
「ではそちらも帰国後検討させていただきます、あともう一点ございまして、それは、私遠城千代と妹の遠城美鈴を国王様のもとに嫁がせていただきます」
「なんだって?!」
あまりの突然さに俺は上ずった声がでていた。
「ですから嫁がせていただくのです」
「ちょっと待ってください、私たちは何も聞いてないですし、突然過ぎではありませんか?」
さすがのメリアもこれには驚き、目を見開いたまま止まっていた。
ローザも同じく驚きのあまり口が半開きのままになっていた。
「これについては今すぐにとは申しません、それと最後に先ほどあった国交については一度我が国に来ていただいて、そこでお話しませんか?」
「そ、そうしましょうか、それの方がお互いいい落としどころが見つかると思うので」
「ぜひそのように、それでは日程の方はいかがいたしましょう」
「そうね……、こちらもスケジュールの関係もあるので……、それでは4日後にしましょう」
「委細承知しました、ではそのように」
「では、この後予定がございますのでお先に失礼します、この後もごゆるりとお過ごしください」
メリアはそう言い残すと俺たちは一緒に部屋を後にしていた。
「あれが私の未来のご主人様、か……」
二人がいなくなった後、千代はぼそりとそうつぶやいた。




