191.決断
最後のカルロゼに向かう兵員輸送飛空艇隊旗艦。
これらの一連の報告を部下から受けたハルト・カイル空軍大将は、絶望的な状況にも関わらず、完膚なきまでに叩き潰してきた敵に対して感動を覚えていた。
「閣下、このまま撤退いたしますか?」
部下である彼にもこのまままた王国領空内に侵入すれば、すぐに発見され一瞬にして消されることは目に見えていた。
「国に帰りたい奴らはこのまま引き返すように伝えろ」
カイルは自分以外の兵達に対して撤退するように言った。
「閣下はどうされるのです?」
「俺はもう帝国にいていい人間じゃない、俺は王国に投降する」
これまでの王国軍の強さを実際に目の当たりにしたカイルはこのまま戦闘を続行させても、勝てるはずがないと判断した。
「閣下!正気ですか!?」
「ああ、俺は正気だ、考えてもみろ、王国はこんなに帝国によって国を侵されているというのに幾度となく我々を撃破し、追い出し、挙句の果てには無防備な帝都まで攻撃してくる連中だぞ?これにこれからどうやって勝てばいいんだっていうんだ?貴様はどうなんだ?勝てると思うかこの戦は?」
「い、いえ、小官には……」
「正直に言え!」
「はっ!帝国はこのままでは勝ち目はないと思われます!!」
「よく言った……そうだろう?でも、家族を国に置いてきている兵もこの中に何人もいるだろう、俺のこの考えだけで彼らを王国側の捕虜として連れて行きたくないんだ、だからさっき言ったようにみんなに伝えてきてくれ、俺は一人で余った竜で飛んでいくさ」
「委細承知いたしました、すぐに……」
それを聞いた部下はすぐにカイルのいる司令官室からきびきびとした動きで出ていき、各部署に伝達に向かった。
数十分後、再びカイルの部屋に先ほどの部下が戻ってきていた。
「報告!先ほどの閣下の命令を各部署に伝達したところ、皆一様に閣下とともに王国に投降する意思を示しました!」
「そうか、それは素直にうれしいな、よしそうと決まればすぐに武装解除!白旗を掲げろ!!」
「はっ!」
これを受けてハルト・カイル空軍大将座上の飛空艇だけでなく飛行隊を形成していた他の飛空艇も白旗を上げ王国側に降伏の意思を示した。
この飛空艇隊は、輸送機護衛任務後すぐに帰投し補給しすぐにカルロゼの上空警戒要員でやってきた第3航空団によって発見されていた。
第3飛行団団長は飛空艇のすべてに白旗が上がっていることを確認した為、すぐに本部に知らせていた。
「ヴェガリーダー、HQ、カルロゼ北部空域に再び敵飛行隊が出現、しかし白旗を上げているのが確認できる」
「HQ、ヴェガリーダー、攻撃の意思がないのを確認後、彼らをこちらに強制着陸させろ」
「ヴェガリーダー、了解」
その後、どうやら彼らに攻撃の意思ないと判断されたので、本部の指示通り、第3飛行団は彼らをセレンデンス基地にエスコートし強制着陸させた。
そして基地防衛隊による臨検と乗員全員武装解除を済ませた後、捕虜として臨時捕虜収容所に収容されることとなった。
こうしてカルロゼとウルス城で起きていた戦いに終止符が打たれた。




