171.レーダーコンタクト!
模擬戦が終わり、撤収命令が出たので基地に帰投しようと全機南へと機首を向ける。
全機が帰投を始めるころには西の方角にちょうど太陽が沈み始めとても幻想的な風景が広がっている。
この時すべての戦闘機乗り達は、帰路に就くことへの安堵感とこの後開かれる懇親会でふるまわれるであろう食事について花を咲かせていた。
そして、日が完全に落ち切り夕闇があたりを支配したとき、突如として敵機接近の報を受ける。
「飛行中の全機に告ぐ!わが領空に多数の飛行物体が接近中!付近を飛行中の機体は直ちに当該空域に急行せよ!繰り返す、わが領空に多数の飛行物体が接近中!付近を飛行中の機体は直ちに当該空域に急行せよ!」
緊迫した無線が流れたとき、今まで基地に帰れると思って気が抜けていた隊員たち全員に衝撃が走った。すぐさま反転し敵がいる方向に急行した。
この時すべての機体は最低限の装備のみ(対空ミサイル×2)しか装備していなかったが、何とか追い払うことだけはできるはずだ。
この情報はもちろんすぐにメリアや俺たちのところにも届いた。
誰も予想していないことではあったが、このような緊急事態には慣れている各軍幹部たちはすぐに作戦を立てた。
模擬戦に参加し現場に近い飛行隊の現場指揮権を一度第1航空団団長に任せこれを臨時混成航空軍(EMA)と呼称、この戦力に加えて、地上で待機していた第4・5航空団と早期警戒機2機にスクランブル発進させ増援に向かわせることにした。
「今回の現場指揮権は第1航空団団長が任命された、各飛行隊、航空団はこれに従い任務に当たれ」
「追加情報、飛行物体の数はおよそ120機、その中に大型飛空艇も含まれている模様、十分に気を付けられたし」
「さらに追加情報、飛行集団はカルロゼ東に向かっていると思われる、射程圏内に入り次第全機撃墜せよ!」
無線に次々と最新情報が流れ現場の状況が次々に判明してくる。
そして情報から推測するにこの未確認飛行集団には大型の飛空艇が含まれていることから帝国空軍にほぼ間違いないだろう。
発報から5分後には当該空域に到達していた。
「レーダーコンタクト!120ボギー!」
一番先頭を飛んでいたF-14Dがレーダーに飛行集団をとらえた。
レーダーには飛空艇の周りを取り巻くように小さい反応が無数に映っていた、おそらくこれは飛空艇を護衛する竜騎兵と思われる。
「EMAリーダーよりF-14D各機、先頭の小目標に対してAIM-54C“フェニックスミサイル”を一斉に放て!」
「「「了解!FOX1!」」」
命令を受けたF-14Dは長距離空対空ミサイルであるAIM-54C“フェニックスミサイル”計60発を一斉発射していた。
AIM-54Cはマッハ5の凄まじい速さで目標目掛けて飛んで行った。
「全弾命中!!」
この一斉発射でレーダーに映っていた約半数の小目標が一瞬にして消えていた。
しかし、半数が撃墜されてもなおひるまず飛行物体は飛び続けてくる。
それから間もなく、中距離ミサイルのAIM-120D有効射程圏内に入る。
「EMAリーダーよりF-14Dを除く全機、ウェポンズフリー!」
「「「了解」」」
次にF-14D以外の全機がAIM-120Dを一斉発射。
しかし、100発を超すミサイルを発射したにもかかわらず全機撃墜には至らなかった、おそらく敵もこちらの手を理解してよけたものがいたのだろう。
ただ、飛空艇を取り囲んでいた護衛はその数を確実に減らし、今では飛空艇の護衛は10機までに減っていた。
「EMAリーダー、オールステーション、これよりドックファイトに移る!高度4万ftまで上昇!」
「「「了解!」」」
ミサイルを全弾撃ち尽くしたので全機接近戦に移行するため再びアフターバーナーを全開にして高度を上げる。
これは一気に高高度から急降下して一撃離脱方式で攻撃するためだ。
「EMAリーダー、目標高度まで達した機は敵に向かって思いっきり突っ込め!」
この無線の後全機が一斉に敵に向かって突っ込んでいった。
各戦闘機は敵の飛空艇や竜騎兵が見えたとたん、20㎜機関砲を撃ちまくった。
この強襲によってかろうじて生き残っていた竜騎兵は瞬く間に消えていった。
今まで“飛行物体”といっていた目標はここにきてようやく帝国空軍所属の飛空艇と竜騎兵と断定された。
そして、飛空艇に書かれている部隊のシンボルマークなどから、KCIAが言っていたレヴァイス空軍基地から飛んできた部隊というのも判明した。
そしてこの飛行集団の中には、竜騎兵の“発着艦”ができるような大型飛空艇もいた。
この飛空艇は何とかして抵抗しようと火や風属性系の魔法で反撃をしてきたが、何回かの機銃掃射には耐えたが次々に撃ち込まれる無数の銃弾に耐えられなくなり堕ちていった。
この時、落ちていった複数の人影が見えたという。
そして、1分とたたずに飛んでいた帝国の飛行物体はすべてレーダーから消失した。
「EMAリーダー、EMA全機、敵性飛行物体の全機撃墜を確認!これより全機帰投する!」
「「「了解!!!」」」
こうして、模擬戦から突如としてやってきた帝国空軍部隊によって本物の空中戦(とはいえ一方的)が起きてしまったが海軍と空軍で臨時編成した混成航空団のおかげで事なきを得た。
これを後世ではこの世界初の航空戦の「東カルロゼ空戦」として名を残すことになる。




