126.バーグ沖海戦!
第三艦隊は王国第一艦隊の主砲の射程圏内にまで接近していたが、敵航空部隊の方が防衛目標であるキティホークに近づきすぎていたので優先して対処することにした。
しかし、なぜこんなにも接近してから攻撃開始命令が下ったのかというと、敵の情報はすでに早期警戒機によってヴィアラを含む空母に乗艦している首脳陣の元にはあったが、あえて引き付けてから大火力をもって殲滅しようと考えていたことから、わざと第一艦隊には伝えていなかったのだ。
これとは別の理由で、血気盛んなものが多い第一艦隊が先に戦闘を始めてしまいかねないというのと、そもそもレーダーを最新のものにしたのはいいものの、装備している兵器のスペックにレーダーの情報が合っていないので、レーダーで感知しても攻撃はできない。
「報告!連合艦隊司令部より対空戦闘開始命令が発令されました!」
「よし来た!合戦準備!」
「合戦準備!」
「露天甲板、退避よし、各部合戦準備よし」
「対空戦闘用意!」
「各部対空戦闘用意よし」
「右砲戦60度、戦闘指揮所の指示目標!主砲弾種、散弾(三式弾)」
命令が下ったのと時を同じくして、自慢の主砲と副砲が回頭を始め、右舷にある高角砲群も射撃準備に入る。
「主砲、副砲用意よし!方向よし、射撃用意よし!」
「撃ち~方~始め!」
「てっーー」
大和と武蔵が先に三式弾斉射を開始したのを皮切りに、駆逐戦隊も続いて対空ミサイルを次々に発射していった。
この大和が使用している三式弾というのは、榴散弾の一種で、対空対地用に使うものだ、三式弾内部にはマグネシウムや可燃性のゴムが入った焼夷弾子と非焼夷弾子が入っていて、これを放出し3000度で5秒間燃焼し敵機などを燃やす役割を持っていた。
史実では信管の作動がうまくいかなかったり、そもそも主砲で撃つため発射速度が遅く弾幕を張るにしては無理があったためあまり効果的な対空射撃とはいかなかったようだ。
しかし、今ではレーダーとLiSMによるリンクシステムのおかげで以前より精度が良くなっているので、史実よりは効果を発揮するはずだ。
「主砲弾、副砲弾ともに命中!諸元そのまま、次弾装填急げ!」
「次弾装填完了!」
「てっーー」
発射した三式弾は敵航空部隊直下で炸裂し、その爆風と焼夷弾の雨にやられた竜騎兵は、竜の方は翼をもがれ、乗っていた兵士は吹き飛ばされ消えていた。
三式弾の次弾が発射される頃には第一駆逐戦隊から発射されたSM-2が次々に飛んできて、僅かに生き残っていた竜騎兵を跡形もなく葬り去った。
「ありえない、こんなことありえない!」
目の前で成す術もなく散っていった竜騎兵隊をみてブルメは驚愕と焦りを覚えていた。
「ブルメ提督!ここは一旦引けの合図を!」
「ならん、あんな国になめられてはたまらん!」
「しかし!」
「不利なのはわかっている、ただここで引けば尻尾を巻いて逃げたと思われるだけだ。しかも相手はこちらより遥か水平線の彼方から攻撃を仕掛けてこれる、だったら我々はこの艦隊を矢に見立て、敵陣に突っ込み華々しく散ってやろうではないか!」
それを言い放った瞬間、目の前にいた副官と周囲にいた部下全員が剣を抜き放った。
「承知いたしました、それでは、あなたにはここで死んでもらいましょう……ご覚悟!!」
「貴様!裏切ったな!」
「グフッ……何、で、カハッ」
次の瞬間、あたりが一瞬暗くなったかと思うと、周りにいた“元”部下たちの首がなくなっていて、副官は心臓を刺し貫かれ絶命していた。
そこには得体のしれない黒い物体がいて、ブルメの方まで近寄ってきたかと思うと、そのままブルメごと消え去っていた。
そして、黒い物体とともにブルメが消え去った数秒後には、その船は海の藻屑となっていた。
航空部隊を殲滅させた連合艦隊は残っていた敵艦隊に対して一斉に砲撃を開始し始めた、第一艦隊は副砲と主砲の射撃と合わせ高角砲でも射撃を開始していた。
一方そのころ、第一駆逐戦隊各艦の主砲射程圏内に敵艦隊が入ってきたので、ミサイルの攻撃から127㎜主砲の攻撃に切り替えていた。
「主砲攻撃始め!」(副長)
「主砲撃ちー方始め!」(砲術長)
「てっー」
各艦が一斉に射撃を開始したため、まるで鉛のシャワーのように敵艦隊に無慈悲に降り注ぎ、発砲炎のせいであたりには雲のように煙が漂っていた。
「連合艦隊司令部より各艦へ、撃ち方やめ!敵の生存者収容に移れ!」
レーダーから反応が消えてもしばらく撃ち続けていた全艦艇に向けてワタは「撃ち方やめ」の命令を発した。
おそらく艦隊に所属する皆の敵に対しての憎悪や怒りがそうさせたのだろう。
「報告!連合艦隊司令部より「敵艦隊“殲滅”を確認、砲撃中止」との通信が入っています」
大和の第一艦橋内にいるリザとに敵“殲滅”の報が届けられた。
「わかったご苦労。大和、武蔵、砲撃中止!」
「主砲、副砲、撃ち方やめ!」
キティホーク艦内のCDCでは俺とヴィアラ、アリサ、ウィスティリア、ベイルたちは、戦闘指揮区域のディスプレイの前に集まり、そこに映し出された大量の撃沈マークを見つめながら、深い安堵のため息をついていた。
「これでひとまず海の戦いは収束したかな……」
「そうですね、これでやっと散っていった海軍将兵たちの仇が討てました……しかし、まだ予断を許さない状況です、特に陸上の東部方面は非常に危険な状態です」
「だな、依然として東部方面では敵の航空優勢が続いているからな、“空軍”ができるまでの間、ウィスティリアの部隊には働いてもらうかもしれないな……」
「お任せください、陛下!この身はすでにあなた様にすべてを捧げているのです、どんな死地へでも参りましょう」
「ありがとう、ウィスティリア。これからまた忙しくなるな……とりあえず、帰ろうか、全艦に告ぐ、進路をキーレ港にむけろ!」
「「「「了解!!」」」」
こうして帝国二大艦隊を葬った新生王国艦隊は勝利の余韻に浸ることなく、すぐさま母港へと引き返していった。




