一目惚れ
一目惚れなんかしないとずっと思っていた、はずだった。
その時は目の前で座っている彼女がとても美しく尊いものに思えたんだ。だからあんな恥ずかしい言葉を言ってしまった。
「俺と・・・・・・一緒の墓に入ってください」
我ながらとてつもないことをしたと思う。後悔などないが。
一月前友達から紹介されたのは「友達がいない女」だった。
ならお前はその子の友達じゃないのかと聞くと苦笑いでやめてくれと言った。
なるほどな、と思った。友達が一人しかいない俺と友達がいない女。友人なりにお似合いと思ったのだろう。余計なお世話だと思うがせっかく俺の為にやってくれたことだ。会うぐらいはしてやろう。
とあるファミレスに友人と待ち合わせた。どうやら彼女は中で待っているらしい。ありえないがもしこれから彼女になるかもしれない人が待ってると思うと緊張してくる。
「お、あれが紹介した石井さん」
友人の無神経な声に釣られ、目を向けた。
きっと目を奪われるとはこの事なのだろう。
「石井さん石井さん、こいつが今日紹介するっていったやつ」
一人で本を読んでいたその姿、長い黒髪、透き通るような瞳。まるで物語の世界から出てきたような姿に俺は見とれていた。
「じゃ、俺はちょっとトイレ行ってくるから」
おそらく気をきかせてくれたのであろう友人の言葉にも反応できずに俺はその場に立ち尽くしていた。
「・・・・・・こんにちは」
彼女の短い言葉、なんて綺麗な声なんだろう。
「石井麗奈です。佐藤さん・・・・・・でしたよね?」
なんとか言葉を絞り出して彼女と会話をしなければ。
「あ、あの・・・・・・石井さん」
「はい」
本を閉じて俺と向き合ってくれてる。なぜこんな優しい人に友達がいないのか不思議でならない。
とにかく伝えたいことを言わなければ。
そう、伝えたいことを・・・・・・
「俺と・・・・・・一緒の墓に入ってください」
その瞬間、辺りは静寂に包まれた。
・・・・・・やらかした。頭を下げてまで何を言ってんだ。案の定彼女固まってるし。
これはすぐ冗談でしたと言って取り消せばいいのか?
「佐藤さん」
「はい」
できるだけ冷静に見えるような声を出してみた。これ以上慌てたりして恥を重ねるのは避けたい。
「今の言葉、忘れないで下さいね」
「・・・・・・はい?」
俺は彼女の言葉の意味がわからなかった。いくら考えてもわからなかった。
彼女はそんな俺の様子など気にせず再び読書を開始していた。
ただ一つ聞きたい。俺は振られたのだろうか。
その静寂は、友人が戻ってくるまで続いた。
後悔してないって言ったけど、あれは嘘だ。