天体観測
夏が過ぎようとしている。柊二…そろそろペガスス座やフォーマルハウトがきれいに見える頃だな。
さやかからメールが届いた。
”来週の土日、一泊で湯元 木崎旅館へみんなで行きまーす。天体観測も兼ねてだから悠紀先輩は望遠鏡忘れずに。あとスペシャルゲストあり!?”
ってなんだこりゃ?木崎旅館って柊二の実家じゃねーか。さやかのやつ、なんか企んでるな。
当日俺は夕方まで仕事をし、直接、旅館へ向かった。
柊二のお母さんが出迎えてくれた。
「悠紀君、久しぶりね。みんなが待っているわ」「ご無沙汰しています。今日はお世話になります」
「案内するわね」
案内された大広間には真鍋、さやか、七星、それから東陽大学天文部のみんなもいた。
「先輩遅ーい!もうアタシ達、先に宴会始めちゃってるからねー」
さやかがすでにできあがっていた。
「おい真鍋、これはいったい何の集まりだ?」「あれ?聞いてませんか?久しぶりに全員集合して天体観測しようって話で、この場所には柊二先輩もいますし、浜田君達に話したら一緒に行きたいって言うから、じゃあみんなで行こうって話になったんですよ。それから、浜田君は教員採用試験の結果が不合格だったからその話は禁句ですよ。もう残念会終わってますから。院にすすむそうです」
「あっ、そうなのね…スペシャルゲストってまさか柊二のこと言ってるんじゃないだろな?」
「違うわよーん」と声が聞こえ、突然後ろの襖が開いたので目をやるとなんと香世がいた。
「香世!おまえ帰ってたのか?」
「先ー輩、久しぶりね。二週間前に帰って来てたわよ。私はもう大丈夫だから」
「さぁ、早く座んなさいよ。先輩の席はここ!七星の隣よ」
さやかが俺の手を引いて座らせた。七星は笑っていた。
「そうだ、今日は浜田君達にも見てもらいたい物を持って来たんだ」
「工藤さん、もしかしてアレですか?」
「そうだよ。明日発売の ”星から君へ” の新刊。じゃーん!」
「うわーっ!」
俺が担当した東陽大学天文部の活動を取材したページを見て、みんな何を言ってるかわからないほど口々にしゃべっていた。
「あ、皆既日食じゃん。私、エジプトで見たよー。ラクダと一緒に見た見た」
香世も旅行中ちゃんと見てたんだな。
「あれ?皆既日食の時の写真載せてるけど、この後ろ姿七星じゃない?」さやかが気づき、七星も「ホントだー。私載ってるね。うれしー」と喜び「ったく先輩どこ写してんのよ。スケベだね」とさやかのツッコミがあり、「東陽大学天文部、廃部からの復活。ちょっとこの記事、僕のこと載ってないじゃないですか!」あー真鍋が新天文部を作ろうとアピールして部員を集めたんだっけ。
竹山君が案内してくれた場所で撮った天の川と夏の大三角形もとてもきれいに写っている。ペルセウス座流星群のルポもなかなか好評だ。俺にとっても嬉しい限りだ。読者にも楽しんで見てもらえたなと思う。
「この号は柊二のお仏壇に飾らせてもらうからな。みんな欲しかったら自分で買うように!」「えーっ!くれるんじゃないのー?」
「さっ、そろそろ始めようか?」
「何を?」
「天体観測だよ」
俺達は中庭に出て、新旧天文部の天体観測をした。少しだがオリオン座流星群が見えている。ペガススの四辺形もきれいだ。北斗七星とカシオペア座の間にある北極星がギラギラと輝いている。まるで柊二も俺達と一緒に騒いでいるみたいだ。
俺は五年前に置いてきた気持ちを、もうそのままにしておきたくない。
「七星、12月になったら一緒にふたご座流星群見に行かないか?」
「えっ…?」
「一緒に行こう。約束な」
七星は笑顔で頷いた。
みんなで柊二が育った場所で見た星空は格別に印象深いものとなった。