第一章 出会い
君はまだあいつのことを想っているのかい?俺もまだ君のことを想っているんだな。
五年前の春、大学四年になったばかりの俺は就活真っ只中だった。それでも天文部にはよく顔を出していた。
「悠紀、おまえ来週、星の山公園での観測会来れるのか?出版社の二次面接だろ?」
「あぁ、多分行けそうだよ。本命の会社だから気は抜けないけど、終わったら行くよ。柊二はいいよな、卒業したら実家の旅館継ぐんだろ?」
「まぁな」
柊二と俺は高校時代からの悪友で、同じ大学で同じ天文部に入った仲だった。まさか同じ人を好きになるとはな。
「おーい悠紀、こっちこっち」
「間に合ってよかった。みんなは?」
「真鍋は晩飯買いに行ってる。香世とさやかはどうしても合コンに行きたいからパスだって。天文部の自覚が全くないな」
「気ままだねぇ。ただでさえ部員少なくて廃部寸前だっていうのに」
七星…あの時、俺達は出会ってしまったんだったな。まさか彼氏にフラれてあの公園で黄昏ていたとは…
「あのーもしかして東陽大学天文部の方達ですか?」
「そうだけど…君は?」柊二が聞いた。
「私も東陽大学の学生です。天文部に入部したいんですけど…」
「君、すごく突然すぎるけど!まぁかわいいし、もちろんいいよな、悠紀?」
「あぁ。俺は工藤悠紀、四年で経済学部。一応部長ね」
「俺は木崎柊二。同じく四年で経済学部。副部長。君は?」
「私は井原七星です。二年で教育学部です」
「あぁ、教育学部ね。俺達とはキャンパスが違うし、どうりでこんなかわいい子と会うわけなかったってことか」
柊二は七星のことをすぐに気に入っていた。その日は七星も一緒に天体観測をした。何を話したか覚えていないけど七星の瞳は涙ぐんでいたっけ。
後日、七星が正式に天文部に入部。そのあと部員で七星の歓迎会をした。酒癖の悪いさやかが七星に絡んでいた。
「天文部ってさぁ、地味でロマンチストが多いけど七星ちゃんはなんで入部したの?」
「私、星座とか子供の頃から好きで、よく星空眺めてたから。なんか星見てると癒されませんか?」
「へぇーあんたもロマンチストだね。名前まで!まぁ星好きの男だけはやめときなよ」
さやかがそう言いながら酔いつぶれた。
「さやかったら星好きの彼氏と一緒に天文部に入ったのに彼氏が大学やめてそのまま逃げられちゃったんだよね。”自分もやめる~”なんて言ってたけど悠紀先輩にとめられたから。まぁ流星群が見れる季節なんか特にきれいで、地味な天文部でも楽しいよ」と香世が言った。
「そういえば七星ちゃん、あの公園で俺と悠紀のことを見て同じ大学の天文部ってよくわかったよな?」と柊二が聞いた。
「はい。前に大学の掲示板で天文部のしし座流星群の観測会レポートを見かけて写真もたくさん載ってたし星の山公園で毎回やってるの知ってたから、もしかしてそうかな…と思って声をかけたんです」
「なるほど。さすが七星ちゃん。見る目あるね」と柊二が言った。
すると突然さやかが起きてきて
「まさかあんた、悠紀先輩か柊二先輩のどちらかをねらって声をかけたんじゃないの~?やめときなって…」と言いながらまた眠りについた。
「さやかの言うこと気にしなくていいからね」と香世がフォローしていた。
その直後、俺の携帯電話が鳴り、喜央出版社からだった。この前の二次面接に合格し、最終面接に来てほしいということだった。みんなも喜んでくれ、それまで静かだった真鍋も
「先輩よかったですね。その出版社が出してる天文雑誌、毎号買ってます。先輩が編集担当になってくれたらなぁーなんて。最終面接頑張ってください」って言って応援してくれてたっけ。
飲み会の帰り道、柊二と七星は家の方向が一緒だから二人で帰った。
翌日、柊二は俺に嬉しそうに話してきた。
「悠紀、昨日さぁ七星ちゃんと帰ったんだけど、あの子、彼氏にフラれたみたいだぞ。んで、傷心を癒そうと星の山公園で星空を眺めてたんだとさ。天文部に入ってくれたのは縁だな。俺、七星ちゃんを今度デートに誘おうかな」
柊二は少し軽く見えるけど、七星のことは本当に愛してたよ。七星もそうだったんだよな、そして今でも…
そのあと俺は喜央出版社、今の会社に就職内定が決まった。