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新たな地《参》

 騒動の翌日。三人は王都の郊外にへとやってきた。昨日、青年に教えられた大会に出場するためだ。

 セルグやリネアは出場する、と言い切ったものの、青年から退会の詳細は聞けず仕舞いであった。そのため出場するのも手間取るかと思われたのだが、試しに宿の人にを聞いてみると、運よくこの場所を簡単に教えてもらえた。ただ、手続きの方法や細かな条件などは知らないので、早めに行って準備したほうがいい、とも。

 その話を聞いた三人は、朝食を急いで終え、早々に会場となる闘技場にやってきたのである。


「へえ、けっこう大勢の人がいるね。去年始まったばかりって言うから、そんなに集まらないと思ってたのに」


 三人が会場に到着した時刻は、ちょうど受け付けが始まったときだったらしい。

 辺りを見渡せば、男女入り乱れて、ゆうに百人以上が集まっている。この全員が参加者という訳ではないだろうが、これだけの人数が集まれば、かなり大規模な大会になりそうだ。


「上等じゃねぇか。やり甲斐があるってもんだぜ!」

「試合数が多いのは嫌だけど、これなら凄い盛り上がりそうだね!」

「……部門ごとに受付が違うようだな。私は終わり次第、宿に戻る」


 と、興奮気味の男二人を尻目に、リネアはさっさと受付に行ってしまった。

 ――温度差が少し悲しい。


「ま、まぁとにかく予選頑張ろう! ここで落ちたら賞金の可能性も無くなっちゃうしね!」

「そーだな。ま、俺は闘えればいいんだけどな。確かに金は欲しいけど、リネアの分は確定だろ」


(うん、確かに。なんかリネアは絶対に負けないと思う……)


 昨夜目の当たりにした確かな力。だが、それ以上に信じられる何かがリネアにはある。

 青年が言った通り、リネアは魔法使いだ。本来なら、こうした大会に出ることすらあり得ない。それでも、本職のセルグ以上に安心を感じるのだから不思議なものだ。

 リネアが受付に向かったことで、二人も参加登録をするため、一旦分かれて各自の受付へと向かった。もちろんアルフォンスは剣を用いて、セルグはその拳を武器として闘うためだ。

 アルフォンスが係員の誘導に従って受付に進むと、受付のそばに大きな看板が張り出され、今大会の禁則事項がいくつも書き連ねられていた。

 まず、今大会は『武術大会』のため、魔法その他の特殊力は一切のご法度。さらに、特殊力を備えた魔剣などの類も禁止、などと記されている。

 その看板の奥に申請書類を書く場所があるのだが、そこで大きな声を張り上げる係員の姿があった。


「武器所持での参加の方はこちらへ! 事前審査登録を行いますので、大会で使用する武器を提示して下さい!」


 こうして係員に言われるがまま剣を手渡したアルフォンスは、難無く審査を終え、三十番と書かれた札を受け取った。

 界王の剣などという特殊なものだから少し不安に思っていたのだが、拍子抜けするくらい簡単に審査を通過できた。――そもそもこの剣のが何から出来ているのかさえ知らないが。

 そこで、はたと不思議に思う。


(あれ? リネアの杖って大丈夫なのかな。魔法使いの杖なんだから、先端の石に特殊力があるんだよね……?)


 リネアの杖は、かなり変わった形状をしている。一見すると短槍のようで、実際にその役割も果たすようだ。昨夜の一件がいい証拠である。

 しかし先端には鋼ではなく、薄紫の石が輝いている。魔石の知識はサッパリなので種類なんかわからないが、ただの飾りということはあるまい。

 アルフォンスは色々と不思議に思ったものの、結局はこう決着をつけた。

 リネアだから大丈夫、と。

 その後、自分の審査を終えてしばらく待っていると、全ての受付を終了した係員から説明が行われた。


「えー、長らくお待たせ致しました。本戦出場枠の三十二名を越えたため、予選を行います。お手元の番号札の数を呼ばれた方が、予選出場となります。それでは……」


 係員が箱から番号の書かれた紙を引き始めた。


「まずは、八番と二十九番の方。次に、十七番と十一番の方。次に……」


 どんどん予選出場者の番号が読み上げられていく。あの人だかりを見て予選の覚悟はしていたが、やはり出来るだけ闘いたくない。

 アルフォンスは自分の番号札をぎゅうっと握り締めながら、祈りに祈った。


(ひぇ~っ、どうか予選無しで! お願いしますぅー!)


「最後は二番と三十番の方! 以上の十名はこちらにお集まりください。呼ばれなかった方々は、明日、同じ時刻にここにいらして下さい。本選の組み合わせの抽選を行います」


 係員からの案内が終わると、場は一気にざわめきを増した。明日のためにさっさと帰る者、予選を見るために陣取る者、予選の用意に奔走する者……。

 三者三様の中、予選出場となってしまったアルフォンスは、闘ってもいないのに真っ白になっていた。

 一方、セルグもアルフォンスと同様に、予選出場を余儀なくされていた。が、こちらは闘う機会が増えたと、大いに喜んでいた。

 セルグは長い間、ゴルディアスのもとで厳しい修業を積んできた。だが、ゴルディアスの考えによって、対人試合を行う機会は滅多になく、日々向き合うのは己自身のみであった。そのため、セルグは試合によって自分の実力を試したいと常々思っていたのである。この大会はセルグにとって、まさに好機であった。

 その浮かれ気分のまま、セルグはアルフォンスの様子見にいこうとした時、後ろ誰かに声をかけられた。


「おい、その服、お前って東派だろ? しかもまだ見習い!」

「?」


 振り返るとセルグと年の変わらない青年たちが数人、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。身なりや言動からして、セルグの属する東派と相対する、西派の武闘家だ。

 西派は勝利を第一とする流派であり、己と向き合うことを重視する東派とは決定的に反りが合わない。

 ただ、この勝利至上主義のため、試合で活躍するのは西派が多い。そのため外部からは西派が最強――と思われがちである。だが、勝利を目的とするあまり、西派は総じて精神的に未熟である、というのが東派や南北二派の考えだ。そのため西派は、人気や実力はあるのに仲間外れ――という、武闘家の中で何とも微妙な立ち位置にある。

 セルグは西派と気づいた時点で、本当は無視して立ち去りたかった。だが、そうすれば確実にセルグ本人だけでなく、東派全体に『負け犬』の烙印が押されてしまう。 勝手な評価とはいえ、セルグはそれを許すことが出来なかった。


「……何か用か?」

「別に。ただ、東派は本当に人手不足なんだと思ってさ。お前みたいな見習いを、小さいとはいえ公式の大会に出すなんて。なあ?」

「おう。おい、さっさと出場辞退したほうがいい。『東派の伝統』に恥の上塗りしちまうぜ!」


 その言葉に、セルグは僅かに目を見開き、ヒュッ、と小さく息を飲んだ。

 怯えでも、悲しみでもない。――間違うことなき、怒りからだ。


「……言葉の使い方、間違ってるぜ?」

「なん……っ!」


 青年はその言葉を、言い切ることが出来なかった。

 セルグが先ほどまでの飄々とした雰囲気をガラリと変え、心の臓を射抜くような鋭い視線で青年たちを睨んでいたからだ。

 睨まれた青年たちは思わずたじろぎ、身を竦ませる。


「恥の上塗りってのは、何かあった後に言うことだ。試合に出れば勝敗がつくのは当然のこと。それが恥なら、武闘家の職が成り立たねーだろうが。それに生憎だが、東派の伝統は一切問題ないぜ? 始まって以来、一度も不祥事を起こしたことがねぇからな、どっかと違って」


 自分の幼稚さを見事に返された挙句、流派の過去の汚点を指摘されたことで、青年の一人が激高し、声を荒げた。


「ふ、ふん! 過去は過去だろ。今やお前らは最小最弱、俺達は最強最大の流派。どっちがマシなものか、ガキでもわかることじゃないか!」

「……現在の人数が少ないのは事実。最小は事実だから、それは認める。……けどな」


 次の瞬間、セルグは一足で青年たちとの間合いを詰めた。一瞬のことで青年たちは反応が出来ず、セルグは頭格と思われる人物の隣に立った。


「最弱は何があろうと認めない。何があってもお前らより下とは認めない! ――それに建前とはいえ、流派の力は全て同じと公言しなきゃいけねぇって決まりがあるだろうが。もしお偉いさん方に聞かれたら、お前ら何もないわけにゃいかねぇぞ? ……わかったか?」


 セルグはそう言い捨てると、何が起きたのか理解しきれてないのだろう、未だに凍り付いてる青年たちを一瞥し、その場を去っていった。


「……な……何なんだ、アイツは……?」


 セルグが去っていった後、青年がやっとのことで口にした言葉は、この一言だった。


(ちっ、やっぱ西派の野郎は気に喰わねぇ)


 最初に出会った武闘家がゴルディアスであったため、単にその思想を継いでいる――という面もなくはない。しかし、セルグは修行を積む中で東派の教えをしっかりと学び、これは素晴らしいものだ、という自負があった。

 そのため、互いに認めながら違いを持つ南北二派との討論は、互いに高みを目指せるものだと思っている。しかし、こちらを弱者と頭ごなしに否定して馬鹿にする西派は何があろうと許すことはできなかった。

 青年たちのそばを立ち去ったセルグだが、ずっとむしゃくしゃとした気分が晴れずにいた。しかし発散できるだろう予選までは、まだ時間がある。そのため気分転換もかね、今度こそアルフォンスを探しに駆け出したのであった。

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