それぞれの道―1
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「いらっしゃいませ。お待ちしていました」
お休みの日なのに黒木さんがビシッといつもの制服を着て出迎えてくれた。
皺一つ見られない服は黒木さんの真面目な性格をそのまま映し出している。
「急にすみません」
「いえ。そろそろ瑠衣さんの集中力も切れてしまうからどうやって仕事をさせようかと考えていたところだったんです。ありがとう、雅ちゃん。おかげで試食も嫌がらずにやってくれそうだよ」
「え? いーえ。どーいたしまして」
突然押しかけてきたのはこっちなのに、何故かお礼を言われるという。
さてはて、これはいかに。
まぁ、ありがとうって言われるのは嫌な気分はもちろんしないからいいけど。
「こちらにおかけになってお待ちください」
「ありがとうございます」
黒木さんは私達を庭が一望できるテラス席へ案内してくれ、お店のバックヤードへ戻って行った。
「かなでさま、ここのあまいの、とってもおいしいんだよ」
「そう。楽しみね」
「うん。あのね、あまいのたべたら、かなでさま、げんきになる?」
「……なるかもね」
かも、だけど、ならないわけじゃない。
ここの甘いのだったら、きっと甘い物好きの奏様もちょっとは元気になってくれるはず!
「ここはなかなか感じの良い店だな。散策の時はここへも寄ることにしよう」
「陛下。お忍びも大概になさってくださいね? まぁ、でもそうですね。木の材質も良いのを使っているのでしょう。木目といい、肌触りといい、申し分ありません」
「ふふん。そーでしょ? すごいでしょ?」
「なんで君が自慢げにしてるの」
だって、自分が大好きなお店を気に入ってくれる人が一人でも増えたら嬉しいじゃない。
もちろん凄いのはお店の雰囲気とか内装だけじゃないってことをこれから瑠衣さん達は必ず証明してくれる。
準備のいい黒木さんが置いて行ってくれた私専用のうさちゃんナプキンを膝にかけて大人しく待つことにしよう。
しばらく待っていると、何やら揉めながら黒木さんと瑠衣さんが皆の分の飲み物と甘味の乗せられたお皿を持ってきてくれた。
あぁ、まーたやってるよ。
いつもなら止めに入るけど、この二人のは止めなくていいって夏生さん達にも言われてるから放っておこう。
でも、優しい黒木さんを怒らせるなんて瑠衣さんもなかなかやりおる。
「……雅ちゃーん!! お待たせ!!」
「あい。おやすみちゅーにごめんなさい」
「いいのよー。一人で食べてもつまらないから」
「こちらは雅さんのお父上のお知り合いで、奏様と千早様です」
「初めまして。ここの店主の安宅瑠衣と申します」
「よろしく」
良かった。
奏様、人間嫌いだって聞いてたからちょっぴり大丈夫かなって思ってたけど、大丈夫そう。
普通に仲良さげに話す二人にほっと胸を撫でおろした。
「さぁ、当店の新作候補を是非お召し上がりください」
「……うはぁーっ」
奏様と瑠衣さんがおしゃべりしているうちに黒木さんが着々とテーブルセッティングを進めていた。
全部で四品あって、どれも美味しそうだ。
横をチラッと見ると、奏様の顔も心なしか綻んでいる。
「雅ちゃん、どれが食べたい?」
本来は一人用でサーブされるんだろうけど、今は大皿に乗って結構な数がある。
ということはつまり。
「ちょっとずつ、ぜんぶで!」
これ一択でしょう?