はじめましてお師匠さま―4
「じゃあ、雅ちゃん。今日から朝ご飯を食べてからお昼ご飯までの間、千早と一緒に特訓してもらうから。私もたまに様子を見に来るから頑張るのよ?」
「あい!!」
奏様があの赤い門を柏手を打って出した。
「じゃあ、雅ちゃん。またね」
「お前っ、ここ腫れてんじゃねーかよ!」
「わりぃわりぃ。ついムキになっちまった」
南のおじさんが二人、一人は脇腹を押さえながら厨房の方に歩いていっているのが見えた。
あの様子じゃ怪我をしてるっぽい。
……つまり私の出番だ!!
「かなでさま、ばいばーい!!」
「あっ! 雅ちゃん!!」
「待って!!」
奏様に手を振って、私はおじさん達の方に駆けていった。
「おじさんたち!!」
「おにいさん、だよ。どした?」
「いたい?」
「い、痛くねー」
「……いたい?」
「ちょっ!! 今、触ろうとしただろ!! イテテ」
「やせ我慢すんなよ」
「てめぇが言うか!!」
触らないよ。
ほら、ちょっとここ座ってください。
袴をちょんちょんと引っ張ってしゃがんでもらった。
「いたいのいたのとんでけー」
「……すっげ」
「これが例の」
「全然痛くねー」
「やっぱりやせ我慢だったんじゃねーかよ」
「うっせ」
おじさん達はさっきまで痣になっていた脇腹をさすさすと擦っている。
問題なく治せたみたいで良かった良かった。
グギュルルルゥ
「雅ちゃん!! あぁ、また!!」
「綾芽さん達に怒られちゃうからちょっと自重して!!」
うーん。分かったよ。
葵さんと茜さんにそこまで言われちゃったら仕方ない。
お昼まで待てないから、美味しいおやつをくれるなら考えるよ!
茜さんに抱っこされた私の前に、帰ったはずの奏様が立ち塞がった。
「かなでさま?」
「……雅ちゃん、ちょっとコレ、治してくれる?」
「ん? いいよー」
奏様が掌を切ってしまったみたいで、紅い筋が一本走っていた。
いつものように、例の呪文を……。
「いたいのいたいのとんでけー」
「……っ。あぁ、なるほど」
奏様? ……お顔、怖い。
「あ、あの。やっぱり何かあるんですか?」
葵さんがごくりと喉を鳴らして代わりに尋ねてくれた。
すると奏様は黙りこくってから、取り繕ったことがすぐに分かる笑みを浮かべた。
「確実なことは言えないけど、たぶん分かったわ。雅ちゃん、ちょっと千早と一緒にいてくれる? この人達に話があるから」
「……はい」
「いい子ね」
奏様は茜さんに下ろされた私の頭をそっと撫でてくれた。
奏様と葵さんと茜さん、そしてアノ人は連れ立ってどこかの部屋へ歩いていってしまった。
たぶん、凛さんのお部屋か、帝様のお部屋だろう。
「なに? 気になるの?」
「え? あ、んー……きにならないわけじゃあない、けど」
「ならそこまで気になってないってことでしょ? じゃあ、さっきまでみたいにヘラヘラ笑ってれば?」
「へ、ヘラヘラ!?」
「奏があんたを外したのはあんたはまだ知らなくていいからだろうし。知らなくてもいいことで悩むなんて馬鹿げてるよ。それに、あんたには今、やるべきことがあるでしょ?」
「……しゅぎょーのつづき?」
「違う」
千早様はクルリと踵を返した。
歩き出した千早様を追って、私も後ろへついて行く。
「ちはやさま、どこにいくの?」
「厨房だよ。あんたのうるさい腹の虫を黙らせるのが先決」
「うっ。……あい」
千早様はちょっと口が悪くて、そういう所は薫くんにそっくりだ。
でも、二人とも、少なくとも私には優しいのだ。
今だって、いくら奏様に言われたからと言って私を放っておくことだってできるのに、私のお腹の虫に付き合ってくれている。
会ったばかりの先輩神様が大好きになれそうだ。
……やっぱりちょっと口は悪いけど。