はじめましてお師匠さま―3
綾芽に買ってもらった水玉寝間着から千早様と同じような童子姿にお着替えした私。
縁側から庭に出て、準備万端。いつでもオッケー。
よし、腹はくくった。
やるときゃやります! できる子だもの!!
さぁ、どんとこいっ!!
「そう気負わなくても大丈夫よ。簡単なものだから。まずはこれを浮かせてみて」
奏様は大きなボールを私の手の上に乗せてきた。
浮かせるくらいだったらどうってことない。
「できたよー」
「そうそう。上手上手」
「つぎはー?」
「今度はこれよ」
今度はさっきのよりも小さいボール。
これもまた簡単にできた。
むむ。なんだか物足りない。
「かなでさまー。もっとできるよー」
「分かってるわ。それじゃあ、段階すっ飛ばして最後はこれよ。ただし、五センチ以上浮かせちゃダメ」
「ごせんち」
奏様が最後と言ってそっと手に置いたのは、何かの鳥の小さな羽だった。
そーっと、そーっと。
……わわっ!! あっ! どこ行くの!! 待って!
「やっぱり。冥府の神の娘なだけあって力は余るほどあるけど、コントロールが微細には働かないってわけね」
「む、むずかしー!!」
「はい。もういいわ」
暴走して高くまで浮いてしまった羽を奏様がトンッと地面を跳んでキャッチした。
……なんだかすごく悔しい。
今後のことを話し始めた三人に放ったらかしにされ、地面に穴をゲジゲジと掘っていく。
「あ、あの!」
「僕達、綾芽さんから雅ちゃんにあまり力を使わせないよう言われてるんです、けど」
声がした方を見ると、葵さんと茜さん達が縁側の柱からこっそりと顔を出していた。
ちなみに二人とも朝ご飯の時、食堂にいた口だ。
二人の顔は若干青白い。
茜さんなんか声がひっくり返っちゃっていた。
「問題ない範囲でやってるから大丈夫よ。そんなに心配なら、そこで見てればいいわ」
「え?」
「あ、えっと」
奏様はそれ以上二人に関わるつもりがないみたいで、すぐに話の続きを始めた。
放っておかれる形になった葵さんと茜さんは、視線を交わしあって大人しく縁側に座った。
ぐぎゅるるるるうぅ
「……本当に食欲にしか出てないんじゃないかってくらい顕著ね」
「うー。おなかすいたー」
奏様が着物の袂に手をつっこんでごそごそと何かを探しているらしい。
目当てのものを探り当てたのか、すっとソレを袂から取り出した。
「はい。これでも舐めて」
「ありがとー」
ペロペロキャンディー苺ミルク味。
お腹が空きすぎてガリガリ噛んじゃいそうだけど、我慢してペロペロ舐めよう。
……お昼まで持つかなぁ。
「丁度いいわ。貴女が力を使う時の反動がどう出るか、この状態で一度確認しなきゃと思ってたのよ」
雅ちゃんと名前を呼ばれ、奏様の方を見上げた。
「ちょっと触るわね」
身体中をくまなく探られ、ちょっぴりくすぐったい。
あ、そこはダメ!! 脇腹はダメなの!!
……アッ。 ウヒャヒャヒャッ。
「……うーん。身体的にも通力的にも変動したような気配はないし。精神年齢の後退?」
んん? 今、聞き捨てならないことを聞いたような。
精神年齢の後退ってどういうことですか? 奏様。
「精神年齢の後退などしておらぬ」
おおっ?
……知り合いくらいにポジションアップを考えても
「コレの精神年齢はこの身体に見合う歳から成長しておらぬ。元からであるのに、後退も何もなかろう」
「……あんたそんなズバズバ物言って、奥や娘から嫌われるとかは考えないわけ?」
「ん? 何故我が嫌われなければならぬのだ?」
「千早、無駄よ。生まれ落ちてから千年単位で神様やってるモノにそういう話は通じないわ」
「……そうみたいだね。いい? 僕達はこんな大人にならないようにするよ」
「あい。りょーかいでしゅ」
コノ人は赤の他人以上知り合い未満から赤の他人に降格決定だ。