はじめましてお師匠さま―2
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いやっほぅ! フィーバー!
……フィーバーってどういう意味なんだっけ? まぁ、いいや。そんな感じに近い。
「そぉら、お待ちどおさん」
「いえー!」
「「いえー!」」
南の人はお祭り大好きな人が多くて、すぐノッてくれるから……好き。
「私達の分までありがとう」
「いやいや。二人分追加するくらい構わんですよ」
奏様と千早様も朝ご飯はまだだったみたいだから、私がお誘いした。最初二人とも遠慮してたけど、待たせて自分だけご飯を食べるっていうのは本当に気が引ける。だから手を引っ張って桐生さんのところで直接お願いするという強硬手段に出た。
桐生さんも快くオッケーしてくれたから、二人の朝食も確保。やっと諦めてくれた。
私の気分は最高潮だ。
「いっただっきまーす!!」
「「あーっす!!」」
今日の献立は三種類。朝からちょいと欲張りメニュー揃いだけど、朝ご飯を食べた後に街の見回りに行くみんなのためにきちんと考えて作られている。
その中で私のチョイスは麻婆丼です。桐生さんにはちょっぴり辛めのオーダーで頼んでみました。奏様は肉豆腐定食、千早様は茄子と牛肉の甘辛炒め定食を頼んでいた。
「あら、雅ちゃん。口元についてるわよ?」
「へ?」
「あぁ、待って。動かないで。……ほら、取れたわ」
「ありがとー」
おっと。……豆腐がプルプルして掴みにくい。
そーっとそーっと……やったどー!
……あ。
「すみません。スプーンかレンゲを貸してもらえるかしら」
「あぁ、はいよ」
お箸、もっと上手く使え るようになりたい。
とほり。
桐生さんからレンゲを借りて、えっちらおっちら豆腐と一緒にご飯を口に運んでいると、ヌッと真横に影ができた。
「菊市?」
立っている男の人からジッと見下ろされる中、私も上目遣いで大きく口を開けた状態でしばしフリーズ。口の端からヨダレがたらり。
あのね、菊市さんとやら。お話あるなら後ではダメですか?
「……チビちゃん、ちょっとそこを退いてくれるかな?」
「な、なっ!」
なんですとっ!?
私から朝ご飯を盗ろうっていうの!?
許さん。許さんぞ!
お盆を抱えてシャーッと威嚇すると、全く気にせず器を向かい側まで動かされ、今度は私も千早様の横に脇を担がれて下ろされた。
そして自分はちゃっかり奏様の隣に腰を下ろしている。
「美しい」
隣に来たからといってご飯を食べるでもなく、ただただ奏様を見てポウッとなっている。
「あーまた始まったか」
「菊市の悪いクセ」
「美しいとか綺麗とかそういうもんに目がねぇっていうか……まぁ、こいつの場合は」
「こいつのばあいは?」
すぐ後ろの席で話していたおじさ、んんっ、お兄さん達の会話に混じってみた。
千早様は我関せずで食事を続けているし、奏様は……。
ね、ねぇ、千早様。なんだかピリピリするの。
空気がじゃなくて、物理的に肌が。
もしかしてもしかしなくても、奏様がお怒り、ですか?
「あぁ、本当に美しい。でも、美しい者を美しいと言える僕の心も美しくないかい?」
……うわぁ。
もしかして、この人。
「……いっそ清々しいまでのナルシスト野郎なんだよ」
パキッと奏様の手元にあるお箸が普通に持っていれば鳴るはずがない音を立てた。
千早様はチラリとそれを見て、黙ってお盆を持って席を移動してしまった。
ちょ、ちょっとちょっと、千早様。
こんな状態の奏様を放っておいていいの!?
「……」
「え?」
俯いた奏様が何かボソボソと言っている。
同じように聞こえなかった菊市さんが聞き返した。
「だーかーら」
奏様がキッと顔を上げた。
「…………………………っ!」
あ、あれ? 奏様が何か叫んでるみたいだけど、何言ってるか聞こえない。
それに、何か耳を両側から押さえられてるような感触が……。
……はっ! もしや!
「このてをはなしてくだしゃい」
「……教育的措置だ」
やっぱり! 貴方だったんか!
「み、雅ちゃん。その人、まさか」
「うむ。これのパ
「あかのたにんいじょー、しりあいみまんってやつです」
言わせないよ?
……なんでみんなお股押さえてるの?
「奏。食事中だ。騒々しい」
「……失礼」
奏様はニコリと笑って何事もなかったようにお箸の替えを要求している。
「……こ、この、僕に」
菊市さんはさっきまでの溌剌とした表情ではなく、まるで亡霊のようにごっそりと生気を抜かれてしまったような青い顔でどこかへフラフラと歩いて行ってしまった。
……ちょっとなんて言われたのか気になるかも。
「かなでさま」
「なぁに?」
「きくいちさんになんていったの?」
「……女の子が知る必要ないわ。ほら、せっかく温かいのだから、冷めてしまう前に食べてしまいなさい」
「はぁい」
奏様に上手くはぐらかされちゃった。
でも、奏様の前を通ってお盆を片付けに行くおじさん達はなんだか若干へっぴり腰になっている。
「おじ……おにいさんたち、どこかけがしたの?」
「あ、いや」
「大丈夫よー。怪我してないから。身体的には。……まだ」
ニッコリ笑う奏様はそれ以上の会話を許しちゃくれなかった。
「……はぁ。まったく。人間嫌いにも程がある」
「えっ!? にんげんきらいなの?」
黙々と食べ続けていた千早様がお箸を置き、呆れたようにジト目で奏様を見た。
奏様はそれに否定せず、きょとんとしている。
「あら、雅ちゃんは人間じゃないじゃない」
「え、あ、うん。そう、なんだけど。……あやめたちもきらい?」
「……雅ちゃんが好きなら好きになる努力するわ」
「はぁ。……相変わらず女子供にはお前はゲロ甘だな」
「当然じゃない。まぁ、甘くしたくない子もいないわけじゃないけど、基本的には優しくしてあげるべきでしょう? 可愛いは正義だもの」
「そう! かわいいはせいぎ!」
やっぱり奏様は同志だった!
甘い物といい、それといい、私達、そっくりだね!
……うまうま~。
「……はっ! でじゃびゅー」
しれっと私の口元にレンゲを運んでいたあの人。
……ドウモアリガトウゴザイマシター。
おかげで口を開けて待っとくだけでご飯にありつけてるよ。
「さ、雅ちゃん。ご飯を食べたら早速あなたの今の実力とかを計るからね?」
「あい!」
ピシッと敬礼。
あーちょっと実力って言われたらなんかテストするみたいでドキドキしてきた。
この感じ、とっても久々だ。
上手くできますよーに!