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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
長いものには巻かれるべし
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長いものには巻かれるべし―5






◇◆◇◆




 あの後、奏様が様子見に来てくれて、罰則コースを聞いたら綺麗な挿絵が入った薬草図鑑をくれた。


 まぁ、いい感じの日だまりに、いい感じに頭を使って読むモノ、いい感じの時間帯。

 そりゃあ、お昼寝コースにいってしまうのも無理ないと思う。


 お腹もいっぱいだったし、字もいっぱいだったから、いつの間にか図鑑を広げたまま寝ちゃっていたみたいなんだよね。


 起きたらまた小さくなってた。



 よしよし。


 やっぱりこの姿の方がしっくりくる。



 食べれる、食べれない、食べれない、食べたら死ぬ。



 ペラリとまたページを捲っていると、襖の向こうから声がかけられた。



「綾芽さん、いらっしゃいますか?」

「あやめはいませーん」

「雅さん? 失礼してもいいですか?」

「どーぞー」



 襖を礼儀正しく作法に則った方法でスーッと開けたのは橘さんだった。


 部屋の中にサッと視線を走らせ、ほんの少し気落ちしたような表情を浮かべている。



 なになに? 探し物? それとも探し人?



「雅さん、陛下はこちらに来ませんでしたか?」

「……みかどさま? き、きてないよー?」

「……雅さん? 私の目を見てください。陛下がどこにいるかご存知ですよね?」

「ご、ごぞんじではないですよぅ」



 図鑑をしっかり握って読書中ですアピール。


 だけど、それで引き返してくれる橘さんじゃなかった。



 図鑑を持ったまま、脚をズリズリ。


 目当ての場所に着いたら、でんと足を広げて襖にもたれかかった。



「雅さん、少しそこをどいていただけますか?」

「えっ!? ……ダレモイナイヨー?」

「……失礼」



 わっ!


 抱っこするなんて反則ー!



 橘さんは私を抱き上げている方とは反対の方の手で襖を開けた。


 襖の向こうには上の段に綾芽と私の布団、下の段には私の遊び道具……いやいやいや、暇つぶし道具と。



「なんだ。もう見つかったか」

「陛下! 何故そのようなところにいらっしゃるのですか!」

「そんなに大声を出さずとも聞こえている。雅、黙っていろと言っただろう?」

「ごめんなさーい」



 失敗失敗。



 帝様は襖の奥から出てくると、何事もなかったかのように持っていた湯呑みのお茶をすすっている。


 色んな意味でフリーダムな人だ。



 もちろん、橘さんのお説教というかお小言は継続中。



 たまに、聴いていますか!?と確認が入り、あぁ、と頷いているけれど、これはたぶん聴いちゃいないだろう。


 綾芽と夏生さんのやり取りに似てるからよく分かる。



 しかも、色んな内容に飛び火しちゃってるから探してた理由まで行きつくのに時間がかかりそうだ。



「まったく! こんな子供にウソまでつかせて!」

「こどもじゃないよ」

「あんなミエミエの嘘をついて誤魔化そうとする辺りその辺の三歳児と変わりません!」

「さ、さんさいじ……」



 いやいや、嘘をつくのが苦手なだけ。


 決して精神年齢が低いわけじゃないんです。


 アレです、アレ。そう、フリなんですよ、橘さん。



 だからそんな憐れむような視線はやめて、帝様!!



「さぁ、南に行く準備は済みました。迎えも来てます」

「行かぬ」

「はい?」



 帝様は側に寄った私を膝に乗っけてプイッと横を向いた。



「私は行かぬ。食事も申し分ないし、なにより雅がおれば毎日退屈するということもない」

「退屈なんてしないでしょう? 書類仕事だって実は溜まってるんですからね?」

「お前が代わりに判を押すので良い。お前の目から見て使えぬ策は使えぬ。つき返せ」

「~っ!」



 信頼されているが故の言葉に橘さんも言い返せない。


 それでは絶対駄目だけど、そこまで信頼されてるのが分かるから嬉しくて、でも反論しなければ、しかし期待には応えたい。


 真面目な橘さんだからこその内心の葛藤が透けて見える。



「「失礼しま~す」」



 廊下側の襖から声がかけられ、帝様が許可を出すと襖がスススーッと開かれた。



「あっ! あおいしゃんに、あかねしゃん!」



 久しぶりに会う二人は四季杯で司会をやってた南の双子さん。



「陛下。南の葵に茜。南の屋敷にお移りいただく際の護衛として参上いたしました」

「準備はできておりますので、いつでも出立は可能でございます」



 帝様に頭を下げて口上を述べた後、二人は中に入ってきた。



「雅ちゃん、ヤッホー!」

「今日も可愛いね!」

「おむかえってふたりのこと?」

「そうだよー。うちの仮ボスに行きたいってお願いしたんだー」

「なかなか忙しくて会えなかったからね」

「わたしもふたりにあえてうれしぃー!」

「もう! なにこの子!! 連れて帰りたい!」

「ねぇねぇ、うちにもおいでよー」

「あのねぇ、いまおそとにでたらダメなきかんちゅーなの」

「え? なにそれ?」

「今度は何したの?」



 ぐぬぬ。今度はってまるで私がいつも何かやらかしてるみたいやん。



 否定? してもいいの?


 いえいえ、駄目ですね。自覚はあります。



「……そうか」

「陛下?」



 私と二人の話を黙って聞いていた帝様が何かを思いつかれたらしい。


 聡い橘さんは嫌な予感を察知したのか、口元を引きつらせている。



「雅も南に連れて行く」

「はいっ!? なにを」

「いいですねー!」

「さすが陛下! 南の皆も喜びます!」

「ちょっと貴方達? 勝手に話を」

「夏生に話を通せ。これは勅命だとな」

「「承知いたしました!」」

「あっ! ……まったく! ……雅さん、申し訳ないんですが、お付き合いいただけますか?」

「は、はーい」



 電光石火のとはこのことか。


 橘さんが止める間もなく、私の南への同行が勅命という形で決まった。





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