思わぬ時期の里帰り―2
家の近くまで着くとお母さんに降ろしてもらって、自分の足で走った。
家の引き戸をカラカラと音を立てて開ける。
「あ、とーるおじちゃん!」
「お前、雅、か?」
「そーだよ! ただいまー」
神主さんの服を着たお母さんのお兄ちゃん、つまり私にとっては伯父さんに当たる人が草履を履きかけていた。
透おじちゃんは全国の神社の神主さん特集で、イケメンベスト3の中に入ってるくらいおモテになられる。
残りの2人はきちんとイケメンっぷりを騒がれていたのに、透おじちゃんに関しては終始美人だ美人だと騒がれていた、らしい。
ここだけの話、その雑誌が世に出た時、出版社に直談判に行ったとか行かなかったとか。
ちなみに現在、独身貴族謳歌中だそうな。
「その姿、どうした? ……優姫の小さい頃にそっくりだな」
「ほんとー? さっきかえってきたの。いまはおつかいまちよ」
「おつかい?」
うーん。私にもよく分かんない。
説明はオネエさんにしてもらおう。
丸投げするために、後ろから来ているお母さん達の方を振り向く。
すると、先程まではいなかった女の人が私のことを見下ろして立っていた。
「この子?」
「あら、早かったわね。そうよ」
オネエさんが女の人にヒラヒラと手を振る。
すると女の人が私を抱え上げた。
「可愛い子。とりあえず、中へ上がらせてもらいましょう」
「そうね。ちょっと、私、温いお茶ね」
「わ、分かりました」
お母さんが慌てて奥の台所へ走って行く。
残されたいまいち状況が分かっていないはずの透おじちゃんも、神様であるアノ人がいるからか、こちらへどうぞと恭しく客間へ促した。
やって来た女の人は奏って名前で、例の元老院?ってところで薬草の管理とかのお仕事をしてる人なんだって。
お母さんが用意したお茶請けの最中を見て、目がキランと輝いたから分かった。
この人、私と同じくお菓子大好きか!
お菓子好き甘い物好きな人に悪い人はいない。
お母さんや透おじちゃんは私が失礼なことをしでかさないかソワソワしてるけど、そんなことしないよ。
私がやらかすのは私が嫌いな人認定した人だけなんだから。
「ねーねー。かなでさま、わたし、もっとあやめたちといたいの」
「そうねぇ。この国は貴女が神修行するには平和すぎるし。たぶんだけど、貴女が元の姿に戻らないのは貴女自身が元に戻りたくないって少なからず思ってるからだと思うのよね」
「なんと!」
私、この姿の方がいいと思ってたんだ。
……うん、思ってる気がする。
不便なこともあるけど、なんだかんだいってこの姿でやれることを楽しんでるし。
すると、顔を伏せて何かを熟考していたお母さんが奏さまの方へ勢いよく頭を下げた。
「あの、迷惑おかけすることになるお願いだって分かってます。でも、長く離れてるとやっぱり不安になるんです。向こうにこの子が行くとして、時々会わせていただくことはできませんか?」
「……いいわ。特別に門を通る許可証を出してあげる」
「本当ですか!?」
「えぇ。ただし、本来なら人間のみでは通ることは許可されてない門だから、人外のモノと一緒に行動してね」
「分かりました。ありがとうございます」
ホッとした様子のお母さんに、透おじちゃんがそっと頭を撫でた。
「おかあさん、わたし、もどってもいーの?」
「……仕方ないでしょう? あなたが戻りたそうにしてるんだから。私は雅の気持ちに反対はしないわ。……ちょっと寂しいけどね」
肩を竦めながらも、笑ってくれる。
やっぱりお母さんはお母さんだ。
いつも私のことを一番に考えてくれるんだもの。
「戻るのはいつにするの? 別にこれからすぐでもいいわよ?」
「あ、一日だけ待ってもらえますか?」
最中の二つ目に手を伸ばしつつ尋ねてくる奏さまに、お母さんが待ったをかけた。
それもそっか。すぐに準備ができるってわけじゃないよね。
「今日はこの子の誕生日なんです。せめて、祝いの日には家族で過ごしたいので」
「あっ!」
そういえば、今日は私の誕生日だったっけ!
毎年毎年、誕生日が来る度に当日は明るく振舞うけど、前日にはすごく思い詰めてるようなお母さんをこっそり見てきたからあんまり自分の誕生日を毎回考えないようにしてたら忘れてた。
ちょうどハロウィンの日だし、みんなお菓子くれるし。
なら、こっちの日でいいんじゃない的なノリで過ごしてたよね~?
「分かったわ。今度は間違いなく安全に送り届けてあげるから、ゆっくりと誕生日を家族で楽しみなさい。私はまだ仕事があるから、また明日来るわね」
「よろしくおねがいしましゅ」
正座したまま深々と頭を下げた。
それから自称・パパさんや。
ちょっと後で、あの時気づいたら戦場にいた件についてお話があります。
もしかして、私を向こうの世界に送り出す時、使う門を間違えてませんでしたか、このやろー。