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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
怒るのも仕事のうち
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怒るのも仕事のうち―1

 



 世の中の皆さんは連休。私は毎日連休。


 ちびっこ生活を完全に謳歌している外見ちびっこ、中身は女子高生がここにおりますよっと。



 一昨日から綾芽はお仕事で出かけていて、今もまだ帰ってきていない。


 良い子にはお土産買ってきてくれるって言ってたから、きちんと良い子で待ってるんだぁ。



 ……おかしいな。いつも良い子でいるはずなのに。



 あぁ、それにしても……



「ひまだー」



 暇だ暇だ暇だ。


 畳の上をあっちに転がり、こっちに転がり。


 本も読んでしまったし、テレビも面白くないのしかない。


 探検も、入っちゃダメと言われている所以外行ってしまった。



「そういえば」

「ん? どうした?」



 部屋の前の廊下を、非番のおじさん達が歩きながら話す声が聞こえてきた。


 隣の部屋へはふすまでしきられてるけど、廊下との仕切りは障子だ。


 だから、仕切りがあるとはいえよく聞こえてくる声にぼんやりと耳を傾けた。



「今日、綾芽さん達、戻ってくるらしいな」

「あぁ。予定を二日も早く繰り上げたんだと」

「まぁ、おちびもいることだしな」

「それな」



 なんと!!


 綾芽が帰ってくるとな!


 いいこと聞いたぞ?



 壁に目あり、障子の向こうに私あり、だ!!



 起き上がり、ふと何気なく机の上にあるお菓子箱を見た。



 その時、私は思い出してしまったのだ。


 半分以上が空となってしまったお菓子箱の存在を。



 ……わぉ。こうしてはいられない。


 綾芽が一日一個までと言い残して部屋の机の上に置いて行ってくれたお菓子箱の中身を補充しなければ!!


 良い子でいないと、お土産なくなる!



 ……ふっ、みんなのお手伝いをして、少しづつ貯めた豚さん貯金箱のお金を使う時が来たか。


 ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、っと。


 うん、大丈夫。結構ある。



 同じお菓子が売ってあるコンビニはすぐ近く。


 この姿になって、初めてのおつかいです。



 まぁ、私がお菓子の誘惑に勝てずに、綾芽が出かけた翌日には半分以上減らしてたのが悪いんだけどね!




 誰かに言ってからがいいんだろうけど、誰も彼も皆忙しそうに動き回っている。


 さっきの非番のおじさん達も外へ出かけてしまったのか、姿が見えない。



 ……近くだし、すぐ済むし、一人で行っても大丈夫だよね?


 あっ! そういえば、門のところにいつも交代で立ってる人いたっけ。


 その人に声をかけていけば大丈夫じゃーん。



 貯金箱の中からカエルさんがま口にお金を移してっと。


 一応、盗られちゃいけないから、シャツの中に押し込んで……うん、完璧です。



 玄関で靴をはいて、いざ! 行ってきます!!





 門をくぐる時、いつもは門番さんが二人、両脇に立っているんだけど、今日に限っていなかった。


 丁度交代の時間だったのかなぁ? 


 まぁ、それでも行っちゃうけどね! だってお土産欲しい。


 すぐ帰るから大丈夫大丈夫。



 いつもは綾芽か、手が空いていて丁度散歩に出かけようとしている人と一緒にしか出歩かせてもらえなかったから、なかなか新鮮だ。


 ……迷子か。迷子防止か。失礼な。


 ちゃんと道は覚えられる、と言って駆け出してすぐに迷子予備軍になったのは散歩係の人と私だけの秘密のはずなんだけどな。



 あっ、飛行機雲!



 コンビニまで子供の足で歩いても十分もかからない。


 大人の足で歩いたら……なんて便利な立地なんでしょ。



「みぎみてー、ひだりみてー、もっかいみぎー」



 横断歩道もちゃんと手をあげます。


 これ、子供だからこそできる恥ずかしさのない行為。


 綾芽達のお仕事はよく分かんないけど、おおざっぱに言うと治安を守ることらしいから、その綾芽達のお世話になってる私がちびっこの交通マナーを守らなきゃダメだよねー。



 横断歩道を渡って、右に曲がって、それほど大きくない川にかかる小さな橋を渡れば、コンビニがある通りに出る。


 コンビニに行くお散歩する時は、帰り道にこの川を覗いて魚を見つけるのが今の私のお散歩立ち寄りコースのブーム。


 これが地味に楽しいんだよ。


 たまーにすっごいでかい主みたいな魚を見つけた時は、ウヒョーってテンションMaxになって、綾芽とかに生暖かい目で見られる。


 けど、楽しいものは楽しいんだよ!文句は受け付けません!!




 コンビニに着いたら、目指すはお菓子の棚一択。


 なくなったお菓子と同じのは……あったー! よかったー!


 しかも、絶妙な位置にある有能っぷり。



「おかーさん、コレ、かってー」

「ダメよ。お菓子は一個まで!」

「えー! やだやだやだ」



 私より背が少し大きい男の子が、お母さんの服の裾を引っ張って駄々をこねている。


 床にまで転がりだしたから、ビックリしてついポカンと口を開けて見てしまっていた。



「ほら、たーくんより小さな女の子が見てるよ!」

「しらない! ほしい! たべたい!」

「もぅ! 迷惑だから起きなさい!」



 両腕を掴まれて、無理やり起こされたたーくんとやらは当然ぶすくれたまま。


 私にもこうやってお母さん困らせたことあったのかなぁ。


 ……お母さん、かぁ。



 今まであんまり考えないようにしてたけど、お母さんどうしてるかな?


 心配、してるよなぁ。



「……ふっ」



 あれ? おかしいな?


 目が急に熱く……



「ど、どうしたの!? 大丈夫?」

「いたいのか? どっかけがしたのか?」



 さっきまで喧嘩してた親子が、オロオロしながら私の前に膝をついて目線を合わせてくれた。


 男の子もさっきまでの駄々こねっぷりはどこへやら。


 まるで自分のことのように心配してくれている。



 一方の私も、自分が流した涙に驚いた。


 泣くつもりなんか、これっぽっちもないのに。



「……ひっ。……ぐすん」



 止まれ止まれ止まれー。


 そう思っても、涙は止まらない。むしろ、増すばかり。



「……けんかしたら、めっ、よ」



 泣いてる理由は違うけど、この親子を心配させちゃいけない。


 そして、小さな子供が喧嘩を目にして泣く理由なんて、とても限られてる。



「おにぃちゃ、おかーしゃんに、ごめん、して」

「……ごめんなさい」



 自分より小さな子供が泣きながら言う言葉に、男の子は素直に従ってくれた。


 お母さんも呆れ顔ながらも、すごく優しい手つきで男の子の頭を撫でている。



「……ぐすん」



 私も早くこの涙を止めなきゃ。


 楽しいことを考えよう。そうすれば止まるはず。


 楽しいこと楽しいことー。


 綾芽のお土産何かなー?


 帰りにあの小川に寄ったら大きな魚いるかなー?


 今日の夜ご飯はなんだろー?



 ……と、止まったー!



 ご飯のこと考えて涙が止まるなんて……薫くんのご飯が美味しいからいけない。



 男の子がキョロキョロと周囲を見渡しながら聞いてきた。



「おまえ、おかーさんは?」

「……おしごと、いってる」



 ここでのお母さんは綾芽ってことにしておこう。


 うん、お母さん的立ち位置だし。


 ごめん、綾芽。



「ひとりできたのか?」

「うん。おつかい」

「すごいな、おまえ」



 男の子は健くんというらしい。


 たける、だから、たーくん。


 住んでるところが意外と近くらしく、私と綾芽がよく遊びに行く公園にもたまにいるんだって。


 世間って狭いよねー。



「危ないから、一緒に帰りましょう? 送っていくわ」

「んーん。ひとりでだいじょうぶ」

「でも……」



 健くんのお母さんはすごく渋っていたけど、二人は他にも行くところがあるみたいだった。


 行かなきゃならない場所があるのに、私のことを送ってもらうなんてこと、してもらうわけにはいかない。




 お菓子も無事に買えたし。


 後は綾芽が帰ってくる前に猛ダッシュで帰るべし!



「たけりゅおにーちゃ、またね」

「こんど、こーえんであそぼうな!」

「うん! ばいばーい」

「じゃぁな!」

「車には十分気を付けて。寄り道しちゃダメよ」

「あい」



 健くんと、健くんのお母さんに手を振ってコンビニを出た。



 何故か私達のやり取りを見ていたコンビニのお姉さんにも笑顔で手を振られる私。


 よくわかんないけど、とりあえず笑顔で振り返しておいた。



 笑顔は万国共通のアピールポイントだということは間違いないね。




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