○○喧嘩は犬も食わない―14
ふふふ~ん。
子瑛さん、子瑛さん。
これ、私が作ったの。食べてみ食べてみ?
「どう?」
「好喫」
「りゅー、なんて?」
「おいしい」
「ムフフフ~」
照れますなぁ!
太陽が沈み、空にはきらきら光るお星さまとこれまた見事なお月様が出ている。
始まってそんなに時間は経っていないというのに、もうそこらには酒瓶が転がっていた。
子瑛さんは十八歳とのことで、私と二人でオレンジジュースの瓶を仲良く分け合ってる。
ちなみに次はブドウジュースに移行予定です。
さて、ここで一つ問題がございます。
この東のお屋敷にはもう一人未成年がいることが発覚しておりますのですが、一向にジュース組の仲間入りを果たそうとしません。
むしろ、初っ端から日本酒飲み始めるというとんでもない所業を見せているではあ~りませんか。
さっきからジュース組へ引き込もうとおいで~おいで~と念じているのにも関わらず、そういったものを一切受け付けないと言わんばかりにシャットアウトされております。
「おさけは、はたちになってから~」
「いやいやいや。そんなのありえねーから」
「元服してるんやから、大丈夫やろ。しかも、薫、あー見えてザルやで?」
「ざる……」
「いくらでも飲めるいうことや」
「……」
そういえばそうだった。
ここ、成人って元服の年だもんね。そりゃあお酒がもう飲めるはずだ。
ついつい向こうの世界と変わらないところが多すぎて、ここが向こうの常識と違うことを忘れがちになってしまう。
……ハロウィンとかがなかったみたいにね!
あれはここに来た時と同じくらいの衝撃的な事実だったね、うん。
「……かーっ。仕事上がりの酒は最高だなっ!」
「おう! ほら、どんどん飲め飲め!」
夏生さんのお許しで本日は無礼講の飲み放題。
おまけに黒木さんも来てるから薫くんが張り切っちゃってつまみもすごく豊富。
呑兵衛のおじさん達にとって今日は天にも昇る日だろう。
さて。
元の世界にも一年にたった一度だけ。
未成年でも飲酒が赦される日がある。
何を隠そうお正月。
お屠蘇は日本酒だ。
つまり……。
私は子瑛さんの膝から飛び降り、庭に敷いたゴザに座っているおじさん達の元へと駆け寄った。
おじさん達はしっかりと日本酒の瓶を抱き込んでいる。
「……ねぇ~おじちゃま」
「あ? なんだ?」
「どうした? チビ」
「それ~。のみたいな」
「は?……いやいやいや。さすがに、なぁ?」
「ダメだろ。俺達が綾芽さん達に殺されちまう」
「だいじょうぶよぉ。こわくないよ~? にんげんだもの」
「いや、人間だけどさ。違うんだよ」
「ちがわないよ~? じゃあ、ためしてみよ」
「どうやって」
「それ、ちょーだい?」
「……いやいやいや。それ、結局お前飲みたいだけだろうが」
「……そんなことないよ~?」
「おい、こっちを見ろ」
「チビ、お前、完全に目が泳いでんぞ」
そんなことないって、うん。
……飲ませてくれないなら、美味しい美味しい連呼しないでくれまいか。
興味しか湧いてこないじゃんか。
「ちょー……あいたっ!」
頭をいきなりペコンと叩かれ、グリンと頭を上に向けると、夏生さんが拳固を構えたまま私を見下ろしていた。
「ガキは大人しく向こうでジュースだ」
「え~」
「なんだって?」
「……だって、ちょっとだけならだいじょうぶよぉ……ブッ」
「反抗する口はこの口か」
「ごめんひゃい」
あーあ。ここに至っては諦めるしかあるまい。
あ、ちょっと夏生さん、力強い。
緩めて緩めて。