○○喧嘩は犬も食わない―10
ふっふふ~ん。
縁側で足をブラブラさせ、待つこと数十分。
待ち人はまだ来ない。
「まだ来ないんやったら部屋の中で待っといてもえぇんちゃう?」
「ダーメ。いちばんにきづいておむかえするの」
「一番もなにも、門番が通さなあかんのやから、門番が一番やろ」
「おしごとのじゃまはダメ」
「……偉い偉い」
綾芽はさっきまで隣で足を組んで座っていたけれど、とうとう縁側に寝っ転がってしまった。
堪え性のない人だ。
今日は待ちに待ったお月見の日。
神様に晴れるようにお願いしてたら、ちゃんと晴れにしてくれた。
ありがとう、天の神様!
「ふあぁ~っ」
「あやめ、ねちゃダメ」
「そうは言うても、こんな昼寝日和の日に縁側におって眠たくならん方がおかしいわ」
「もうすこしまって!」
もうすぐ瑠衣さん来るから!
今日は今から瑠衣さんとお月見のお団子作りです。
私じゃ薫くんと瑠衣さんが険悪ムードになった時、ちゃんと止められるか不安だから一緒にいてもらわなきゃ。
薫くん、今日すでに不機嫌だし。
もうそろそろ来るはずなんだけどなぁ~?
「あ、車の音してるやん。来はったんやない?」
「ホント!?」
綾芽がそう言ってから数分後、門に二人組の男女の姿が見えた。
「みやびちゃ~ん!」
ホントだ!!
しかも、瑠衣さんだけじゃなくて、あの店員のお兄さんもいる!
「ん? なんや、誰かと思えば黒木はんやないの」
「やぁ。今日は荷物持ち兼、運転手兼、雑用係として駆り出されてね」
「そらお疲れさん。ほな自分、ちょっと寝ますわ。もう来たからえぇやろ?」
綾芽が起き上がり、軽く伸びをして私に問うた。
「かおるおにいちゃまとけんかになるからダメ」
「え~。瑠衣はん、喧嘩なんかしはらんて。なぁ? 黒木はん」
「そうだね。君の前で喧嘩なんて大人気ない真似するわけ、ないですよね?」
「……喧嘩なんて……いつもしてないわよ」
瑠衣さん、声が小さくなってるよ。
確かに瑠衣さんからしてみれば喧嘩はしてないかもしれないけど。
あれは完全に薫くんを煽って、おちょくって、遊んでるもんね。
「黒木さん!!」
綾芽を何とかして動かそうと試行錯誤していた時。
バタバタと門の向こうから件の薫くんが走って入ってきた。
「どうしてここに!? 連絡してくれればいいのに! さ、上がってください。今、お茶出しますね?」
見たことがないような笑みを浮かべ、薫くんは店員のお兄さん、黒木さんの手を引いた。
さりげに持っていた荷物も半分受け取っている。
薫くん、君は私の知っている薫くん?